第2話

陰キャくん。
3,125
2022/05/22 15:43

─────あの人のおかげで




俺の見る世界が、360°変わった。



*


特にこれといった理由はなく




なんなら親に『大学まで行けるから』と




半強制的に入れられた“須能中等部”。




初めのうちは友達もできたし、




俺が所属していたサッカー部でレギュラーをとれて




その時は本当に嬉しかった






こんなにも楽しく学校生活を送っていた俺だったが





中2の冬に自体は一変した



上級生
お前、ファンクラブあるらしいな


そうやって上級生に呼び出されたのが



全ての始まりだった

上級生
ちょっと顔がいいからって調子乗ってるだろ
目黒蓮
そんなことっ……!俺には恐れ多いです、
上級生
嘘つくなっ!


その日をきっかけにいじめは始まった




最初は私物がなくなるなど、些細なことだった




それがだんだんエスカレートしていって




教科書やノート、プリント類を破かれたり落書きされたり




持ち物がゴミ箱に捨ててあったり。




悪口なんてそんなの日常だし



時には暴力振られたり




当時1番仲が良かった友達もそのうち離れてった


…ごめん、もう蓮とは一緒にいられへん…
目黒蓮
え……?


今までいじめられている俺を




助けてくれた友達までもが俺の元を去ってく






……もう、嫌われちゃったのかな、




ひとりぼっちになっちゃった…




閑散とした放課後の教室に1人、ぼうっと机を見つめた





ペンで書かれた無数の落書き。悪口。




…これ、消えにくいんだよな




そんなことを考えながら雑巾を片手に擦ってく




なんで俺だけこんな苦しい目に合わなきゃなんないの。




もう辛いよ、しんどいよ。




ねぇ、俺、なにかした?




俺の頬を伝うとめどなく溢れる涙は止まることを知らなかった





*

高校生になった今も、変わらずいじめは続く




いつしか上級生だけでなくヤンキーたちにも



いじめられることとなっていた



いわゆる、不良ってやつ



授業サボって遊び呆けて。




昼休みはお決まりの体育館ウラ。





ほんと、そこしかないのかよ。



毎回呼び出された時に思う




…怖いから絶対言えないけど、




体育館ウラってさ、ド定番なとこあるじゃん?



だけど、これが面白いくらい誰にも見つからない




毎日毎日、暴力、暴力、暴力。




おかげで痣が消えてくれないや




今日もまた始まるのか、そう思うと憂鬱になる




暴力に体が慣れてしまったのだろうか



もう殴られたって、どれだけ痛めつけられたって



少しの痛みすら感じなくなってきてるんだよなぁ…。


目黒蓮
う、……っ!!

抵抗なんて、とても出来ないからされるがまま。




痛いとか感覚ないから時間が経って、




あいつらが飽きるのをひたすら待つだけ
ヤンキー
おいつ、ノーリアクションだぞ!?
ヤンキー
おもしろくねーっ
ヤンキー
じゃあこれ使えば?


今日はいつ解放されるんだろう




なんて悠長なことを考えている間に




そのヤンキーがカラン、と金属音とともに




取り出したのは金属バット






……それでなにするの。





理解するまでものすごく時間がかかった




あっ、と気づいた時にはもう遅くって。




目の前にいるそいつは手に持っているバットを



握りしめて振りかぶった




俺はぎゅっと目をつぶる




……もう無理だ。


どう足掻いたって、逃げる道はない


抵抗なんてしても到底叶わないから。






そう諦めた時だった

お前ら何してやがるんだ!?


暗闇の中で怒号が聞こえた



それから待っても待っても痛みは来なくて。



俺はおそるおそる顔を上げる



すると目の前にはいつものヤンキーたちはいなくて。




代わりにあいつらから奪ったであろう金属バットを持った



別のヤンキーがこっちをうかがっていた



…見たことない人だな、

岩本照
大丈夫か、

強面の彼はそう俺に問いかける



えぇ、今度はなに…


こわいよ、、



誰かに助けてって縋りたいんだけど、



どうしても身体がすくんじゃって。




そんな俺を見兼ねたのだろうか。

岩本照
なんもしねぇって。ほら、バット置いたぞ。

彼は手に持っていた、いかついバットをその辺に



放り投げて言った



ガシャーン、と大きな物音がしてそれに反応してしまう

目黒蓮
っ……!?

こわい、こわいよ、、ほんとにどうしよう



逃げようにも腰が抜けてて立てない…




するとヤンキーは俺をまじまじと見てくるのが



俺の長い前髪越しに見えた



…前髪長くて良かった、



目を合わせるのが怖くて俺は下を向いた

岩本照
お前、あの時の……!
目黒蓮
……!??


うそでしょ、1回会ってるの?



全然覚えてない…、


やばいどうしよう、これ覚えてなかったら



殴られたりとか─────

岩本照
あ、そっか……覚えてねぇよな、
目黒蓮
すみません……

掠れかけた声でそう言うと、自然と涙がこぼれた




自分の声から思っているよりも怯えていることがわかった


岩本照
全然、いい。つか覚えてないのが普通

だから泣くな、なんて彼は付け足す




…予想外だった。



だってヤンキーってすぐ手出してくるじゃん



いつものヤンキーたちがそうだから偏見があった



だけど、彼は一向に手を出す素振りも見せない




特殊な人だなぁ、とぼーっと考える




すると彼はこちらに手を伸ばし、俺のしていたマスクをずらした

目黒蓮
!?

声にならない声で悲鳴をあげた



なに…、もうこわいよ、
岩本照
おぉ、イケメン……


ヤンキーのすることはイマイチ分からない




そして言うことも全然分からない

目黒蓮
……おれ、ブサイクなんです、


だってみんなそういうんだもん。




さっきまで俺をいじめてたヤンキーも上級生も。




みんな、みんな言うんだもん

岩本照
お前でブサイクなら世の中の男みんなブサイクだろ
目黒蓮
……そんなこと、ないです…。
岩本照
お前さーもっと自信持てよ?自分が思ってるよりも綺麗だぞ

そう言ってふっ、と爽やかに笑う彼。




そんな彼を見ると胸が締め付けられる感覚があった

目黒蓮
………。


たまらなく恥ずかしくなって目をそらす




そんなの、はじめていわれた…、

岩本照
てか、怪我してる。顔────

そう言って彼は手を伸ばしてくる




彼は絶対手を出してこない。殴ってこない。





それが分かってる。分かってるんだけど、




人の手によって傷つけられるという




トラウマがあるから咄嗟に顔を覆ってしまった

目黒蓮
ひっ……!
岩本照
あ…ごめ……


彼はすぐに手を引っ込めて謝ってくれるが



それが申し訳なくなって。

目黒蓮
すみません…あの…おれ、授業あるのでもう行きます、


俺の小さな声はちゃんと届いただろうか。




そんな心配を残しながらも昼休みの終わりを口実に





俺は逃げるようにして走った







さっきからずっと胸が高鳴ってる






なんなんだろう、この感じ。





彼を見ているときゅって胸が締め付けられて苦しくなるの。







この感情を自覚し、名前が付けられるようになるのは






まだまだ先のお話。