義父母は葎の本当の保護者とよく似ていて、
救いようのないクズだった。
彼らにも息子がいた。
そう。葎が生まれて間もない頃に預けられた二つ年上の本当の兄、
『天瀬藍』だった。
これは親戚の人が話しているのを聞いてはじめて知った。
葎には伝えていない。
それでも葎は藍に本当によくなついていた。
義父母も天瀬と言う名字だったが、
義父と父は従兄弟だったらしい。
世間は狭いな。クズが感染るわけだよ。
藍は葎が来るずっと前から虐待されていたようだった。
こっちのほうの天瀬家には男尊女卑が根付いていた。
藍は家の事情、葎はいじめの心的外傷で、幼い頃から男装していた。
他にも理由はあると思うが、藍も葎も、似たような境遇の人を見つけて少し安心したのだろう。
二人とも次第に口数が多くなり、明るくなった。
そうして、葎のなかにいた人格はひとり、またひとりと葎に統合されていった。
親から虐待されているときにも、葎は頑張って表に出ていた。
強くなっていた。
最後まで残っていたのは“私”。
“私”も、もうすぐ消えようと思っていた。そんな矢先だった。
小学六年生ももう終わりのその日は両親に無理矢理連れ出され、ドライブにでかけていた。
義父は車だけは愛していたな。
そこで起こった悲劇。
大破し、
ひしゃげて歪んだ車。
ピクリとも動かない義父母。
私が確認できたのはそこまでだった。
葎が気絶してしまったから。
次に見たのは藍の顔。
彼は最期に、「よかった......」と告げ、
葎の上に倒れ込んだ。
体は冷たかった。
........死んでいた。
それからだったよ。葎が私との入れ替わりを拒絶するようになったのは。
それほどまでにショックだったんだろう。
葎はその辛い境遇を乗り越えるために、
藍に成りきった。
そうして、葎は新たなる人格、
さっきまで君たちが接していた藍を生み出したんだよ。
そうして、また葎は自分の中に逃げ込み、自分で自分に蓋をした。
私は何もできなかった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。