いじめはそんなに長くは続かなかった。
私が祖父母に引き取られたから。
両親は死んだ。
“葎”が...........殺した。
知っていたか?
人は、追い込まれたら何でもやるんだよ。
“葎”はいつも死のうとしてた。
だから“私”は毎日繰り返される自傷行為を懸命に止めてた。
ある日いつものように父親が襲ってきてね、
もちろん“私”が表に出ていた。
でもふとした隙をついて、“葎”が自分から表に出た。
驚いたよ。
葎は近くにあったリスカ用の包丁を思いっきり振った。
包丁は父親の喉にクリーンヒット。
葎は続いて母親のもとに行き、狂ったように刺し続けた。
私は葎が悪いとは思わない。
葎はこうするしかなかった。
自分で痛みを押し付けるためだけに作った“私”に、
罪悪感を覚え、同情するほど、
愚かで優しかったから。
でもこのままだと葎が捕まる。
私は証拠を隠滅することにした。
いつも父親が吸っていたタバコに火をつけ、
家を燃やした。
そこに偶然訪ねてきたのが祖父母。
こうして“葎”は焼け出された悲劇の少女になった。
でも、私も限界だった。
結局“私”では葎を救えなかった。
助けられなかった。
火事のあと、葎はいっそう死にたがるようになった。
“私”にも、痛みを引き受けるのには限界があった。
私は、葎が“私”を作ったように、
私も“別の人格”をたくさん生み出していった。
一時は賑やかだったよ。
学校担当、祖父母担当、友達担当.....
みんなで役割を分けて過ごし、
葎を守った。死なせたくなかった。
『コウタロウ』に会っていたのも、本当の葎じゃない、
別の人格。
そして祖父ががんで死に、
後を追うように祖母が死んだ。
『天瀬葎』は、母親の妹の家に預けられることになった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!