第74話

sixty six
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2022/03/22 07:00









いじめはそんなに長くは続かなかった。








私が祖父母に引き取られたから。








両親は死んだ。








“葎”が...........殺した。








知っていたか?








人は、追い込まれたら何でもやるんだよ。








“葎”はいつも死のうとしてた。








だから“私”は毎日繰り返される自傷行為リストカットを懸命に止めてた。








ある日いつものように父親が襲ってきてね、








もちろん“私”が表に出ていた。








でもふとした隙をついて、“葎”が自分から表に出た。








驚いたよ。








葎は近くにあったリスカ用の包丁を思いっきり振った。








包丁は父親あいつの喉にクリーンヒット。








葎は続いて母親のもとに行き、狂ったように刺し続けた。








私は葎が悪いとは思わない。








葎はこうするしかなかった。








自分で痛みを押し付けるためだけに作った“私”に、








罪悪感を覚え、同情するほど、








愚かで優しかったから。








でもこのままだと葎が捕まる。








私は証拠を隠滅することにした。








いつも父親が吸っていたタバコに火をつけ、








家を燃やした。








そこに偶然訪ねてきたのが祖父母。








こうして“葎”は焼け出された悲劇の少女になった。








でも、私も限界だった。








結局“私”では葎を救えなかった。








助けられなかった。








火事のあと、葎はいっそう死にたがるようになった。








“私”にも、痛みを引き受けるのには限界があった。








私は、葎が“私”を作ったように、








私も“別の人格”をたくさん生み出していった。








一時は賑やかだったよ。








学校担当、祖父母担当、友達担当.....








みんなで役割を分けて過ごし、








葎を守った。死なせたくなかった。








『コウタロウ』に会っていたのも、本当の葎じゃない、








別の人格。








そして祖父ががんで死に、








後を追うように祖母が死んだ。








『天瀬葎』は、母親の妹の家に預けられることになった。

















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