第4話

辛そうな顔
65
2020/02/04 22:26
4限目終了のチャイムが鳴り、生徒達は一斉に動き始めた。
遥香
遥香
お待ちかねのお昼だよぉ~!
葉月
葉月
待ってました!
大和
大和
弦っちも一緒に食べる?
弦
いや、彩月ちゃんと約束してるから、ごめん
大和
大和
大事にされてんな~彩月先輩
私は、ふとお姉ちゃんの姿を真正面に見つけた。
葉月
葉月
弦、あれおね…
お姉ちゃんは、男子生徒と親しげに話している。
すると…
葉月
葉月
っ!
弦
……
お姉ちゃんが、その男子生徒に抱き締められた。
弦は、口を開けたまま、呆然と立ち尽くしている。
そして、二人はゆっくりと離れ、お互いを見つめた。
…お姉ちゃん、何してんの?
弦がいるのに…
弦
……
弦は、光のない目で、ただぼんやりと二人を見つめている。
お姉ちゃん達は、手を繋いでその場を去っていった。
葉月
葉月
ゆ、ずる…
弦
…ごめん、ちょっと一人にさせて
葉月
葉月
…分かった
私達は、弦をその場に残して、屋上へ向かった。





大和
大和
俺、弦っちのあんな顔、初めて見たかも
遥香
遥香
佐倉くん、大丈夫かな…
葉月
葉月
……
食事中、私達は出来るだけ、弦とお姉ちゃんの話をしないようにしていた。
でも、やっぱり気になる。
お姉ちゃん、どうしてあんなことしてたの…?
弦のこと、好きじゃないの…?
???
あ、葉月、いたいた
葉月
葉月
っ、お姉ちゃん…
後ろから声をかけられて振り向くと、そこにお姉ちゃんがいた。
お姉ちゃん
お姉ちゃん
これ、弦くんに渡しておいてくれない?
さっきからずっと探してるんだけど、見つからなくて
お姉ちゃんは、ノートが何冊か入った袋を手渡してきた。
葉月
葉月
…お姉ちゃんさ、さっき男の人と何してたの?
私見たんだけど
お姉ちゃん
お姉ちゃん
さっき…?
葉月
葉月
とぼけないで!
男の人と二人で抱き合ってたじゃん!
本当に知らないように振る舞うお姉ちゃんに苛立ちが募り、私はつい強い口調で言ってしまった。
お姉ちゃん
お姉ちゃん
…あー、見てたんだ
弦くんも見てたの?
葉月
葉月
そうだよ、…どうして、弦がいるのに…っ
お姉ちゃん
お姉ちゃん
…なら話が早いね
お姉ちゃんは、続けた。
お姉ちゃん
お姉ちゃん
…私、弦くんと別れるつもりなの
葉月
葉月
…え?
お姉ちゃん
お姉ちゃん
私なんかには弦くんなんて勿体無いよ
葉月
葉月
そんなことない!
まわりのみんなもお姉ちゃんと弦だからこそ…
お姉ちゃん
お姉ちゃん
それに、私知ってるの
葉月
葉月
…何を?
お姉ちゃん
お姉ちゃん
…葉月、弦くんのこと好きなんでしょ
お姉ちゃんの言葉を聞いた瞬間、私は涙が出た。
葉月
葉月
…そんな理由で別れないでよ
お姉ちゃん
お姉ちゃん
でもね、私やっぱり…葉月の方が大事なの
実の妹だから、幸せになって欲しいんだ
お姉ちゃんの顔を見れば、それが本当の理由だってことは分かる。
でも…
葉月
葉月
…それなら、弦の気持ちは?
お姉ちゃん
お姉ちゃん
…っ
葉月
葉月
私は、自分の恋が叶うより、…弦の気持ちを尊重したいよ
葉月
葉月
お姉ちゃんが私のことを想っててくれたのは嬉しいけど…弦と別れるのは悲しい
『…ごめん、ちょっと一人にさせて』
そう言った時の、弦の悲しそうな顔。
私は、それが忘れられなかった。
たとえ自分の恋が実らなくても、弦が幸せだったら、それでいい。
そう思っていたのに…

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