臣の地方公演最終日の朝。
東京都内の有名結婚式場には、壱馬を欠いたお揃いのスーツ姿。
辺りをキョロキョロ見る慎。
樹は少し考えた顔をした。
綺麗で優しい…
確かにそうだけど…
壱馬さんにはそうは映って無さそうだった…
あなたさんて…
何考えてるか分かんないよなぁ…
同じ頃。
東京湾が見える埠頭に止まってる一台の車。
その中に乗っていたあなた。
壱馬と一緒に監督から指示を受けていた。
露骨に緊張した顔を俯かせる。
打ち合わせの時から、指示されるのはそれだけ。
窓の外の壱馬を見上げる。
伸びた手が頭にポンと乗った。
そう言って微笑んで見せた壱馬。
"そんなに俺が嫌いかよ…"
あの時…
壱馬はそう言った…
そう…
そうよね…
壱馬には…
私はそう見えてるのね…
メイクさんがセットしてくれた髪。
クシャクシャとされた。
ムッとした顔で慌てて手を払うと髪を整える。
ケラケラ笑う壱馬。
スタンバイを求められると、壱馬は車から離れていく。
カチン…と慣らされるとゆっくりと車に近付いてくる壱馬。
険しい視線を交わしあって、車にドンッと手をついた。
自分でそうしてきたの…
それでいいの…
分かってるの…
思わず身を乗り出した監督。
本当にケンカしてるみたいなやり取り。
掴まれた腕を振り払う。
胸元のネックレスを引きちぎると壱馬に押付けた。
ゆっくりと走り出す車。
サイドミラーの壱馬が映し出される。
一人残された壱馬のカットが終わると
監督の声が飛ぶ。
少し先で止まってる車に駆け寄る壱馬。
ハンドルを握りしめて俯くあなた。
特別な感情を持てば…
作れなくなってしまう…
だから…
嫌われて良かったはずなの…
そうなるようにして来たの…
それが壱馬の為になるの…
一粒落とした涙。
それを見た壱馬は、驚いて足を止めた。
だけど…
どうして…?
どうしてこんなに…
苦しくなるの…?
どうしてこんなに…
悲しくなるの…?
"俺が嫌いって顔してりゃいい…"
"いつものあんただ…"
口に出されたら、胸に刺さる。
車の中で、あなたは一人唇をキュッと噛んだ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。