ペットボトルの冷たさを感じながら思い出す。
それは懐かしい記憶。
午後一で、臣から電話があった。
一緒に食事するから夜は開けておくようにと。
メンバーの誘いを断って、帰ってきた壱馬のお腹。
キュルキュルと音を立てていた。
時計の針は既に20時を過ぎようとしている。
ソファからガバッと起き上がった直後。
カチャン…と音を立てた扉から、臣が姿を見せた。
自分の部屋に入ろうとノブに手をかける。
両手にたくさん持っている袋。
持ち上げて見せた。
後ろを振り返る臣。
その背中から現れたのはあなた。
驚きを隠せない壱馬。
お互いにどうして対面しているのか理解出来ない。
二人の視線が臣に向いた。
クスッと笑ってオープンキッチンに袋をドサッと置いた。
手の空いた臣は、あなたに近付くと肩を抱いた。
臣を見上げるあなたの視線。
言わない約束だったのにあっさり認めた臣に、声を大きくした。
クスクスと笑う臣はあなたの手を引く。
壱馬は眉間にただシワを寄せた。
あの日…
兄貴は凄く楽しそうで…
よく喋って…
よく笑って…
全てを知っていて欲しい…
なんて…
何も隠さない…
なんて…
聞いたことも無い言葉で…
何がいいんだよ…
どこがいいんだよ…
あんな女の…
あんな…
女の…
どこが…
繰り返してしまう。
そればかりを。
考えれば考えるほど腹が立ってくる気がする。
なのに、その中にほんの少しだけ。
よく分からない感情が佇んでいた。
触れてはいけない…
掘ってはいけない…
ただなんとなく。
そんな気がしていた。
気が…
していたのに…
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。