第12話

佇む感情
2,666
2021/05/26 02:50

ペットボトルの冷たさを感じながら思い出す。

それは懐かしい記憶。

壱馬
壱馬
もぉ…兄貴飯食いに行くんじゃなかったのかよぉ…。
午後一で、臣から電話があった。

一緒に食事するから夜は開けておくようにと。


メンバーの誘いを断って、帰ってきた壱馬のお腹。

キュルキュルと音を立てていた。


時計の針は既に20時を過ぎようとしている。
壱馬
壱馬
あーもうっ!
我慢出来ねぇ!
ソファからガバッと起き上がった直後。

カチャン…と音を立てた扉から、臣が姿を見せた。
臣
ただいま(笑)
壱馬
壱馬
遅せぇよっ!
臣
ごめんごめん(笑)
打ち合わせ長引いちゃってさ。
壱馬
壱馬
上着取ってくるわ。
もう腹減って死にそ。
自分の部屋に入ろうとノブに手をかける。
臣
あー。買ってきたから。
ウチで食べるよ(笑)
壱馬
壱馬
え?
両手にたくさん持っている袋。

持ち上げて見せた。
壱馬
壱馬
ウチで食べんの?
なんだぁ…俺食いたいもんあったのに…。
臣
外はちょっとまずいかなぁと思ってさ。
壱馬
壱馬
は?なんで?
後ろを振り返る臣。

その背中から現れたのはあなた。


驚きを隠せない壱馬。
壱馬
壱馬
あんた……。
(なまえ)
あなた
川村…くん…?
お互いにどうして対面しているのか理解出来ない。
壱馬
壱馬
なんでここにいんだよ…。
(なまえ)
あなた
私のセリフなんだけど…。
二人の視線が臣に向いた。
壱馬
壱馬
どういう事…?
(なまえ)
あなた
川村くんもいるなんて聞いてなかったよ…?
クスッと笑ってオープンキッチンに袋をドサッと置いた。
臣
紹介しようと思って(笑)
サプラ~イズ。
壱馬
壱馬
紹介…?
一緒に仕事したことあんだから、誰かくらい分かってんだけど…。
手の空いた臣は、あなたに近付くと肩を抱いた。
壱馬
壱馬
えっ……。
臣
こういう事(笑)
壱馬
壱馬
こういう事って…聞いてねぇけど!?
臣
だから紹介するって言ったろ?(笑)
臣を見上げるあなたの視線。
臣
あなたも驚かせたね(笑)
ごめん。
(なまえ)
あなた
どういう…事なの…?
臣
壱馬は、俺の実の弟だよ(笑)
(なまえ)
あなた
えっ!?
壱馬
壱馬
兄貴っ!!
言わない約束だったのにあっさり認めた臣に、声を大きくした。
臣
いいの。
壱馬
壱馬
でもっ!
臣
あなたには何も隠さない。
俺の全てを知っててもらいたから。
壱馬
壱馬
兄貴……。
臣
それと、ここの鍵も渡したから。
そのつもりでね(笑)
壱馬
壱馬
はぁっ!?
鍵って…俺いんだぞ!?
臣
仲良くやってよ?(笑)
クスクスと笑う臣はあなたの手を引く。

壱馬は眉間にただシワを寄せた。



あの日…

兄貴は凄く楽しそうで…


よく喋って…

よく笑って…


全てを知っていて欲しい…

なんて…

何も隠さない…

なんて…

聞いたことも無い言葉で…


何がいいんだよ…

どこがいいんだよ…

あんな女の…


あんな…

女の…

どこが…


繰り返してしまう。

そればかりを。
考えれば考えるほど腹が立ってくる気がする。

なのに、その中にほんの少しだけ。

よく分からない感情が佇んでいた。


触れてはいけない…

掘ってはいけない…


ただなんとなく。

そんな気がしていた。


気が…

していたのに…

プリ小説オーディオドラマ