LDHの事務所。
裏口から入って来た北人と壱馬。
エレベーターでリハスタジオの階まで。
特に何か会話する訳でもない二人。
靴音だけが響く。
そこへ。
前から歩いてくる臣の姿。
ニッコリ笑顔で挨拶する北人。
ほんの少し口元を緩めて返す。
すれ違い様。
声をかけた瞬間。
服をガバッと掴んで来た臣。
壱馬が反応するより早く、凄い力で廊下の壁に押し付けた。
ドンッ!!
鈍い音とともに壁が揺れる。
胸ぐらを掴みあげて、物凄い剣幕で睨みあげる臣。
驚いているのは北人だけ。
ゾクッとする程低い声。
それとも…
掴み上げる手の力。
少しも緩まない。
どちらかだと思っていた壱馬には意外。
臣は壱馬にグッと顔を寄せる。
動揺する壱馬は視線を逸らした。
逸らした視線を戻す壱馬。
さっきよりずっと、攻撃的な目付き。
あなた…?
あなたって言ったか…?
いつも…
あんた…
あいつ…
そんな風にしか呼ばなかったのに…
ずっと自慢だった…
ずっと引け目だった…
三代目 J Soul Brothers…
登坂広臣…
あんたの陰に隠れて…
自分を押し殺すのは…
もうやめる…
壱馬は力いっぱい臣の手を振り払った。
オロオロしているだけの北人。
背を見せようとする臣を
そう呼んでしまった壱馬。
北人は目を見開いた。
交わし合う鋭い視線。
そう返した臣は、サングラスをかけるとその場を立ち去った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!