第43話

引く気
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2021/05/02 07:34
NAOTO
NAOTO
壱馬……。
臣ちゃんとの間に何があったか知らないけど…あなたを巻き込むな…。

複雑そうな顔の壱馬。
NAOTO
NAOTO
知らないはずないよな…?
あなたが臣ちゃんの大切な人だって事…。

長いこと見てきた…

臣ちゃんの事を…



"会いたい…とか寂しい…なんて言葉が聞きたくなる…?"



あんなことを言ったことは無い…


今までとは違う…


臣ちゃんにとって…

あなたは他の女とは違う…
NAOTO
NAOTO
当てつけや…反抗のつもりならもっと別の方法が…。
壱馬
壱馬
そんな事で……。

ナオトの言葉を遮る壱馬。

顔を上げた。
壱馬
壱馬
そんな理由で…兄貴の幸せを壊すと…?
NAOTO
NAOTO
だったら…。
壱馬
壱馬
ナオトさん…。
俺たちが兄弟であることは言うな…そう決めたのは兄貴です…。

俺にとって…

兄貴の言うことは絶対…


破ったことは無い…

反抗したことは無い…


兄貴がそう言うなら…

正しいことなんだ…


守っていれば…

何も問題ない…
壱馬
壱馬
俺は…そうやって生きてきた…。
けど…それとこれは別です…。
NAOTO
NAOTO
壱馬……。
壱馬
壱馬
俺は…俺が好きになった女を追いかけてるだけ…。
その女がたまたま…兄貴の女だった…それだけの事です…。
NAOTO
NAOTO
引く気は…無いの…?

身体をちゃんとナオトに向き直らせる。
壱馬
壱馬
ありません。

キュッとスニーカーを擦る音。

反応すれば、不安そうな顔の北人が立っていた。
北人
北人
行く…って…。
壱馬
壱馬
分かった…。

壱馬はナオトに頭を下げる。
壱馬
壱馬
話して頂いてありがとうございました。

頭を上げて口元を緩める。
壱馬
壱馬
兄貴を、よろしくお願いします。

クルッと身体を翻して背を見せる。
壱馬
壱馬
行くぞ…北人…。
北人
北人
あ…うん…。

ペコッとお辞儀する北人は壱馬を追いかけた。



臣ちゃん…


これはちょっと…

壮大な兄弟喧嘩になっちゃうかもしれないよ…



壱馬の背中を見つめて、ナオトは心の中で呟いた。




バスルームで散々あなたを抱き漁った臣。

意識の飛んだあなたを抱いてベッドに横になっていた。


腕の中の細い身体。

小さな肩を抱いて頬を撫でる。
臣
ごめんね…あなた…。

白い肌にいくつもついた赤い華。



こうでもしないと…

お前はまた…

俺の腕の中で壱馬を見る…


そんな事には絶対しない…



額に唇を押し当てる。
臣
あなた…どこにも行かないで…。

胸に押寄せる不安と恐怖。

そこに確かにあるあなたの体温だけが、臣の心を保たせていた。

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