第44話

帰る場所
2,171
2021/05/02 10:10

太陽がその日の役目を終え、月が登る。

弱々しい光を放てば、街はネオンに彩られる。



ベッドの上で目を覚ましたあなた。


身体中、ジンジンとして消えない余韻。

ゆっくりと起こす身体。



力の抜けている足を踏ん張ってリビングへ出た。



ヒューと吹き込む風。

素肌には少し寒い。



窓に視線を移すと、上半身を顕にしたままジーパンに細い腰を押し込んだ臣。

ベランダで静かにタバコの煙を吐き出していた。



タバコを口にくわえて手すりに寄りかかる。

月明かりだけが映し出すあなたのシルエット。
臣
目が覚めた?(笑)

フッと緩む表情。
臣
寒いね…。
今閉めるよ。

タバコを消すと中に入って扉を閉めた。

あなたに近づいて頭をそっと撫でる。



お前は綺麗だ…



大きな手が首筋を伝って肩へ下りた。
臣
大丈夫…?
(なまえ)
あなた
……うん。
臣
ごめん…怖かった…?
(なまえ)
あなた
…………うん。
臣
あなた…俺を見て…。

そう言われて顔を持ち上げた。

穏やかなのにどこか寂しそうな臣の微笑み。
臣
……愛してる。
(なまえ)
あなた
……え。
臣
キミを愛してる…。

愛してる…なんて初めてのセリフ。

あなたの顔が驚きを広げると、困った顔で笑う。
臣
そんなに驚かないでよ…(笑)

鼻先を照れくさそうにかいた。


そっと抱き寄せる。

素肌のままのあなたを。
臣
あなた……。

耳元で囁く声。
臣
俺と…暮らさないか…?
(なまえ)
あなた
えっ……。
臣
傍に…いて欲しい…。

密着した身体。

頭にチュッと音を立てるキスを落とした。
臣
俺の帰る場所でいて欲しい…。

見上げるあなたの顔を、弱々しい光が照らす。
臣
こんな気持ち…初めてなんだ…。

初めて出会った時から…

あなたには…

驚かされっぱなしだった…


初めてのことだらけで…

戸惑った…


あの頃から…

俺の気持ちはもっと…

ずっと膨れ上がって…


もう止まらない…
臣
あなたが傍にいてくれるなら…俺は…三代目を捨ててもいい…。

大きなあなたの瞳が見開かれる。


どうして…?

どうしてそこまで…

三代目を捨ててもいいなんて…
臣
俺は本気だよ…?
とはいえ…出来れば捨てたくはない(笑)
みんな、大事な仲間だからね。

クスッと笑って見せた。
臣
けど…それくらいキミが愛おしい…。
(なまえ)
あなた
お…み………。

長い髪に滑り込ませる指先。

小さな頭を捉える。


臣の唇が迎えに来ると、あなたはゆっくり瞼を落とした。




同じ頃。


ピピピッ…


ベッドの上で鳴った電子音。

引っこ抜いた体温計は38.6の表示。


熱い吐息を、ため息として吐き出した壱馬。
壱馬
壱馬
……ヤバ…。
明日までに下がっかな…。

突然の発熱。


痛む身体を寝返らせる。

浅い呼吸で、枕の端をギュッと握った。



あなた…

会いたい…


抱きしめたい…

抱きしめて欲しい…


傍に…

いて欲しい…



目を閉じれば、アフロディーテの衣装を身にまとうあなたが浮かぶ。

シーツを撫でると、指先が身体のラインを思い出してきた。



好きだよ…


あなた…


好き…

だよ…



頭の中で何度も繰り返せば、甘い匂いが抱きしめてくれる気がした。

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