太陽がその日の役目を終え、月が登る。
弱々しい光を放てば、街はネオンに彩られる。
ベッドの上で目を覚ましたあなた。
身体中、ジンジンとして消えない余韻。
ゆっくりと起こす身体。
力の抜けている足を踏ん張ってリビングへ出た。
ヒューと吹き込む風。
素肌には少し寒い。
窓に視線を移すと、上半身を顕にしたままジーパンに細い腰を押し込んだ臣。
ベランダで静かにタバコの煙を吐き出していた。
タバコを口にくわえて手すりに寄りかかる。
月明かりだけが映し出すあなたのシルエット。
フッと緩む表情。
タバコを消すと中に入って扉を閉めた。
あなたに近づいて頭をそっと撫でる。
お前は綺麗だ…
大きな手が首筋を伝って肩へ下りた。
そう言われて顔を持ち上げた。
穏やかなのにどこか寂しそうな臣の微笑み。
愛してる…なんて初めてのセリフ。
あなたの顔が驚きを広げると、困った顔で笑う。
鼻先を照れくさそうにかいた。
そっと抱き寄せる。
素肌のままのあなたを。
耳元で囁く声。
密着した身体。
頭にチュッと音を立てるキスを落とした。
見上げるあなたの顔を、弱々しい光が照らす。
初めて出会った時から…
あなたには…
驚かされっぱなしだった…
初めてのことだらけで…
戸惑った…
あの頃から…
俺の気持ちはもっと…
ずっと膨れ上がって…
もう止まらない…
大きなあなたの瞳が見開かれる。
どうして…?
どうしてそこまで…
三代目を捨ててもいいなんて…
クスッと笑って見せた。
長い髪に滑り込ませる指先。
小さな頭を捉える。
臣の唇が迎えに来ると、あなたはゆっくり瞼を落とした。
同じ頃。
ピピピッ…
ベッドの上で鳴った電子音。
引っこ抜いた体温計は38.6の表示。
熱い吐息を、ため息として吐き出した壱馬。
突然の発熱。
痛む身体を寝返らせる。
浅い呼吸で、枕の端をギュッと握った。
あなた…
会いたい…
抱きしめたい…
抱きしめて欲しい…
傍に…
いて欲しい…
目を閉じれば、アフロディーテの衣装を身にまとうあなたが浮かぶ。
シーツを撫でると、指先が身体のラインを思い出してきた。
好きだよ…
あなた…
好き…
だよ…
頭の中で何度も繰り返せば、甘い匂いが抱きしめてくれる気がした。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。