第34話

証明
2,370
2021/04/30 00:14

着替えを済ませたあなた。
(なまえ)
あなた
お疲れ様でした…。

スタッフに挨拶を投げて結婚式場を出る。
スタッフ
スタッフ
ねぇねぇ…キスするなんて台本になかったよね…?
スタッフ
スタッフ
あれマジのキス…?

ヒソヒソと咲かせる噂を背に感じながら。


臣…

なんて言うかな…


仕事とは言え…

壱馬とキスしたなんて…


式場の目の前に立っていた壱馬。
壱馬
壱馬
乗れや…。

口を開けているタクシー。
(なまえ)
あなた
電車で帰るから…。

横を通り過ぎるあなたの腕を掴む。
壱馬
壱馬
いいから乗れや…。
(なまえ)
あなた
ちょっと…離して…。
一人で帰るって言ってるでしょ…。
壱馬
壱馬
暴れんな…。
乗りゃいいんだよ。

壱馬の腕をポンポン叩くあなたを無理矢理押し込む。

続いて乗り込む壱馬は、事務所の場所を告げた。



不自然な距離感。


お互い黙ったまま。

あなたはずっと俯いていた。
壱馬
壱馬
信じて…へんやろ…。

細い足を組む。

後部座席に背を預けてポツリと出た関西弁。
壱馬
壱馬
ま…せやろな…。

俺自身が一番驚いてる…


みんなの前で…

あんな事が出来るなんて…
(なまえ)
あなた
私…臣に言ってないの…。
壱馬
壱馬
何を?
(なまえ)
あなた
MVに出ることよ!
壱馬
壱馬
言わんでもええやろ。
仕事なんやし。
(なまえ)
あなた
臣…いつもと様子が違った…きっと怒るわ…。
壱馬
壱馬
え?

"会いたい…キスして欲しい…抱きたい…"


思い出してしまう。

臣の声。
壱馬
壱馬
確かに。
俺とキスしてたなんて聞いたら怒り狂うかもな…。
(なまえ)
あなた
分かってるならっ!
壱馬
壱馬
俺は別に構わん。
(なまえ)
あなた
えっ……。

首を倒してあなたを見た。
壱馬
壱馬
本気だって証明したる…。
(なまえ)
あなた
証明って……。
壱馬
壱馬
俺は兄貴からあんたを貰う…。

思わず歪めてしまう顔。
壱馬
壱馬
俺には兄貴に勝てるもんなんか一個も無い…。
歌も…容姿も…頭も…。
だから張り合った事もない。
刃向かったこともな。

せやけど…

俺にも出来た…


どうしても…

兄貴に負けたくないもの…



スッと伸びた大きな手。

あなたの手をキュッと握ってきた。
壱馬
壱馬
あなた…俺は…。
(なまえ)
あなた
壱馬……。

昔も同じ言葉を言った…

あなたの…

お兄さんに…
(なまえ)
あなた
私は…あなたとは恋愛関係にはならない…。

ハッキリ口にされた。
壱馬
壱馬
なん…でや…。

握られている手を解いて窓の外に視線を移した。

壱馬は不自然な距離を一気に詰めると、あなたの腰に手を回す。


グッと抱き寄せれば、ハッとするあなたに、しっかりと重なるキスをした。


拒みたくて持ち上がる細腕。

そうしたい事が分かっていたように掴んだ壱馬。


何度も重ね直す。


頑ななこの唇…

こじ開けたるわ…


舌先が強引に割り込めば絡みつく。



んっ…ふっ…//



もれる吐息がリップ音に混ざれば頭の中を刺激する。

タクシーの中だという事実。



このまま抱きたい…


兄貴の腕の中でしか見せてない…

あんたの顔が見たい…

俺が欲しくてたまらないって顔が…


俺の腕ん中で…

言わせたい…


俺を好きだと…



止まらなくなりそうな自分を必死で抑えるのに、唇を離せなかった。

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