着替えを済ませたあなた。
スタッフに挨拶を投げて結婚式場を出る。
ヒソヒソと咲かせる噂を背に感じながら。
臣…
なんて言うかな…
仕事とは言え…
壱馬とキスしたなんて…
式場の目の前に立っていた壱馬。
口を開けているタクシー。
横を通り過ぎるあなたの腕を掴む。
壱馬の腕をポンポン叩くあなたを無理矢理押し込む。
続いて乗り込む壱馬は、事務所の場所を告げた。
不自然な距離感。
お互い黙ったまま。
あなたはずっと俯いていた。
細い足を組む。
後部座席に背を預けてポツリと出た関西弁。
俺自身が一番驚いてる…
みんなの前で…
あんな事が出来るなんて…
"会いたい…キスして欲しい…抱きたい…"
思い出してしまう。
臣の声。
首を倒してあなたを見た。
思わず歪めてしまう顔。
せやけど…
俺にも出来た…
どうしても…
兄貴に負けたくないもの…
スッと伸びた大きな手。
あなたの手をキュッと握ってきた。
昔も同じ言葉を言った…
あなたの…
お兄さんに…
ハッキリ口にされた。
握られている手を解いて窓の外に視線を移した。
壱馬は不自然な距離を一気に詰めると、あなたの腰に手を回す。
グッと抱き寄せれば、ハッとするあなたに、しっかりと重なるキスをした。
拒みたくて持ち上がる細腕。
そうしたい事が分かっていたように掴んだ壱馬。
何度も重ね直す。
頑ななこの唇…
こじ開けたるわ…
舌先が強引に割り込めば絡みつく。
んっ…ふっ…//
もれる吐息がリップ音に混ざれば頭の中を刺激する。
タクシーの中だという事実。
このまま抱きたい…
兄貴の腕の中でしか見せてない…
あんたの顔が見たい…
俺が欲しくてたまらないって顔が…
俺の腕ん中で…
言わせたい…
俺を好きだと…
止まらなくなりそうな自分を必死で抑えるのに、唇を離せなかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!