第3話

嫌いな女
3,875
2021/04/21 11:00

その日。

中目黒の事務所内にあるリハスタジオ。


帽子とマスクで隠した顔。

更にフードを被れば、誰か分からない。

全身真っ黒でやって来た壱馬。
壱馬
壱馬
おはよ。
鏡の前でじゃれ合っている、北人と樹と慎。
北人
北人
あ、おはよ。壱馬(笑)
慎
壱馬さん、色無さすぎ(笑)
壱馬
壱馬
あー…まぁリハだしいいかと思ってさ。
北人
北人
影薄っ!(笑)
樹
夜なら気付かないですよ(笑)
壱馬
壱馬
ほっとけ(笑)
フードと帽子を取って、ペタンと潰れた髪に空気を含ませるようにクシャッとした。


ガゴン…と重たい音を立てて扉が開く音。

スタジオ中が振り返る。


背中まで伸びた柔らかそうな髪。

花柄のロングスカートに、白いコットンのブラウス。

濃すぎないナチュラルなメイク。

決して派手じゃないのに漂わせる甘い匂い。
慎
あなたさんっ!!
いの一番に声を上げたのは慎だった。
(なまえ)
あなた
みんな、おはよう(笑)
アッという間に囲まれる。
RIKU
RIKU
来てくれたんですか(笑)
(なまえ)
あなた
もちろん(笑)
慎
あなたさぁん。
甘えるように腕を絡めて身体を寄せた慎。
(なまえ)
あなた
あら、朝から甘えん坊さんね(笑)
慎
だって、来るなんて聞いてませんでした。
(なまえ)
あなた
収録前の最終リハでしょ?
厳しくチェックするわよ?(笑)
陣
これは気合い入れなあかんな!
LIKIYA
LIKIYA
仕上がってますから、期待してください(笑)
(なまえ)
あなた
楽しみにしてます(笑)
弾けんばかりの笑顔。

輪の外から見ていた壱馬。



次の新曲…

invisible loveを作った女…


それだけじゃない…

THE RAMPAGEの楽曲の大半を作ってる…

俺らとは切っても切れない縁の女…


そして…

俺と…

兄貴のことを知ってる女…


兄貴の…

女…
スタッフ
スタッフ
みなさん、そろそろ始めます!
スタッフの声でみんなスタンバイを始める。

ボーカルたちに渡されたマイク。

北人をセンターに、右手に立つ壱馬。


長い前髪の奥から見る鏡の中。


スタッフと談笑するキレイな横顔。


嫌いだ…


俺は…

あの女が嫌いだ…


初めて会った時から…

あいつは俺を試してる…


ほら…

歌ってみろ…

どれだけ歌えるのか見せてみろ…


そう…

言ってるような曲ばかり作る…


苦労してる俺を見て…

笑ってやがる…


いつも…

その程度かと…

笑ってやがんだよ…


ようやく手にしたんだ…


三代目 J Soul Brothers 

登坂広臣の弟としてじゃなく…

THE RAMPAGEの川村壱馬…


俺が俺として認められる場所を…


俺だって必死だった…

この5年ただ必死で駆け抜けてきた…


ふと鏡の中で合ってしまった視線。

緩んだ口元。

艶やかな唇が動く。
(なまえ)
あなた
期待してるわよ。川村くん(笑)
そう言われてムッとした顔を逸らす。


川村くん…?


それも…

嫌いだ…


壱馬は手にしていたマイクを強く握りしめた。

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