そんな風に言われると思ってなかった壱馬。
ハッキリ口に出された。
掴まれている手を払ってリビングに戻る。
追いかける壱馬はもう一度細腕を掴んだ。
さっきより強い力で。
グイッと引っ張れば長い髪が柔らかそうに揺れた。
俺を受け入れてくれたんじゃ無いのか…?
俺たちは…
気持ちを通い合わせたんじゃ無かったのかよ…
クスッと嫌な笑い。
荒らげた声。
戸惑いとは違う。
悲しいとも違う。
形容出来ない壱馬の表情。
スルッと力が抜ける。
壱馬の手。
その一言で変わる壱馬の顔。
あなたの身体を壁に押付けた。
ドンッ!
と背中がぶつかる音。
交わし合う険しい視線。
露骨な怒り。
ゆっくりと緩む。
あなたの口元。
あなたの身体から手を離す。
自分の身なりを整えるとカバンを掴んだ。
ドスドスと足音を立てて部屋から出ていく。
バンッ!と玄関を思い切り締める音が響いた。
薄暗い部屋に一人残されたあなた。
ズルズルと壁を伝って座り込む。
膝を抱えれば涙がボロボロと勝手に溢れ出した。
ごめんなさい…
ごめんなさい…壱馬…
あなたの腕からは…
ちゃんと伝わっていた…
私を…
想ってくれている事が…
私の身体には…
しっかり残された…
あなたの…
ぬくもりが…
でも…
私にはこうするしかない…
突き放すしかないの……
あなたの…
為なの……
許して……
涙が止まらなくて、あなたは抱えた膝に顔を埋めた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!