第14話

戸惑い
2,514
2021/04/24 07:14
(なまえ)
あなた
壱馬…痛い…。

歪む顔。

壱馬
壱馬
えっ…あっ…悪い…。

我に返るとパッと手を離した。

(なまえ)
あなた
ごめんなさい…。
壱馬
壱馬
え…。
(なまえ)
あなた
そんなに怒ると思わなかった…。

水を止めると静けさが戻る。

(なまえ)
あなた
お昼作ったら帰るから……。
浮かべる苦笑い。


一人で泣いてたり…

急に来てみたり…

なんだよ…

こっちが戸惑うっつーの…

壱馬
壱馬
あー…いや…俺も少し言い過ぎたわ…。
悪い…。
(なまえ)
あなた
じゃあ、いてもいい?
壱馬
壱馬
あかんっ!
(なまえ)
あなた
この流れで?
壱馬
壱馬
どの流れや…。
ええか?食ったら帰れや?
(なまえ)
あなた
分かったわよ…。

テーブルの上に出された野菜や肉のパック。

腕に抱えてキッチンに戻る。


長い髪を緩く結ぶと包丁を取り出す。

壱馬は落ち着かない感じでソファに戻った。



再びゲームに戻る気になれなくて携帯を触ったり置いたり。

包丁がまな板を叩く音。

それに混ざって聞こえてくる鼻歌はinvisible love。



こいつはホンマに…

なんちゅー声で歌うねん…



ジッと見つめてしまう壱馬。

その視線にクスッと笑う。
(なまえ)
あなた
もうちょっと待ってね(笑)
壱馬
壱馬
あ…いや…。
歌…上手いんやな…。
(なまえ)
あなた
え?
壱馬
壱馬
綺麗な声しとる…。

ポカンとして壱馬を見る。

壱馬
壱馬
へ…変なこと言うたか…?
(なまえ)
あなた
本職の人にそんなこと言われたの初めて…。
壱馬
壱馬
え…
(なまえ)
あなた
壱馬に言われると、なんか嬉しい(笑)

ニッコリ微笑む。

再び動かす手。



嬉しいってなんやねん…

そんな嬉しそうに笑うなや…


お前は…

俺を貶してなんぼやろ…


ほんま調子狂うわ…
(なまえ)
あなた
壱馬、THE RAMPAGEになって何年経った?
壱馬
壱馬
え…あー…5年…やな。
(なまえ)
あなた
そう…早いわね…。

視線を投げれば、少しだけ寂しそうな顔だった。

壱馬
壱馬
あんたの曲のおかげやろ…。

包丁を置いてキッチンに手をつく。

(なまえ)
あなた
曲は所詮曲よ…。
そこに歌が乗って初めて生きる。
壱馬
壱馬
けど……。
(なまえ)
あなた
私はただ…絵を書いているのと同じ…。
色をつけて初めて完成される。
その色があなたたち。

あなたは目を伏せた。

(なまえ)
あなた
私から…卒業していくのね…。
壱馬
壱馬
え?
(なまえ)
あなた
三代目のように…なるのかしらね…。

ポツリとこぼされた言葉。

想像もしていない言葉だった。



なんやそれ…

どういう意味や…



壱馬はキッチンを挟んであなたの前に立った。
壱馬
壱馬
なぁ…。
兄貴と…なんかあったん…?
(なまえ)
あなた
何にも(笑)
あ、ほら、もう出来たから、お箸出してくれる?

いつの間にか漂っていたいい匂い。

結局、あなたと壱馬は向かい合って食事を取った。

プリ小説オーディオドラマ