壁際のパフォーマーたちが一斉に驚きへとその表情を変えた。
陸と北人も驚いた顔を見合せた。
壁際が揃ってポカンと口を開けていると、響く声。
カメラが止まれば音も止まる。
一瞬の静寂。
パンッ!!
痛そうな音が響いた。
頬を思いっきり叩かれた壱馬の髪が揺れる。
キュッと唇を噛むあなた。
小さな拳をギュッと握りしめる。
だけど…
嫌いだから…
その仕返しがこれ…?
レコーディングで散々やられてる仕返しがこれなの…?
その言葉にハッとする壱馬。
心のたけをまくし立てるあなた。
たまらず強く抱きしめた壱馬。
あなたの身体が強ばるのを腕に感じた。
ちゃうんや…
きっとホンマは…
初めて会った瞬間から惹かれてた…
せやけど…
あんたはいつまでも俺を認めん…
何年経っても…
初めて会った時のまんまや…
俺をけなして…
何時間も歌い直しさせる…
それはまるで…
何年経っても…
THE RAMPAGEになっても越えられない…
兄貴へのしがらみみたいやった…
あんたの俺を見る目が…
所詮…
登坂広臣の弟…
そう…
言ってるような気がしてた…
イヤやったんは…
そう思ってしまう俺自身…
耳元で囁かれた。
緩んだ腕の中で自然と見つめ合う。
一度認めてしまったら…
もう引き返せない…
心がそうであると認識してしまったら…
無かったことには出来ない…
あんた…
が名前に変わる。
頭をそっと引き寄せられて重なったキス。
さっよりずっと優しくて柔らかい。
なのに、さっきと変わらず焼かれそうな唇。
唇が重なる寸前。
小さな小さな声で囁かれた。
俺の女になれ………
その言葉ごと熱い吐息を流されれば、強ばった身体から力が抜けた。
目の前の光景は芝居なのか。
壱馬とあなたに何が起こってるのか分からなくて、現場はザワついていた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。