第33話

キス
2,565
2021/04/29 10:53

壁際のパフォーマーたちが一斉に驚きへとその表情を変えた。
慎
……キス…しました…か?
海青
海青
しました…ね…。
やましょう
やましょう
した………。
陣
台本…そんなやったん…?
健太
健太
マジか……。

陸と北人も驚いた顔を見合せた。

壁際が揃ってポカンと口を開けていると、響く声。
スタッフ
スタッフ
オッケーです!

カメラが止まれば音も止まる。


一瞬の静寂。



パンッ!!



痛そうな音が響いた。

頬を思いっきり叩かれた壱馬の髪が揺れる。


キュッと唇を噛むあなた。
(なまえ)
あなた
私が嫌いでいい…。

小さな拳をギュッと握りしめる。
(なまえ)
あなた
意地悪で…あなたを目の敵にして、けなしてばかりいて…。
そう思ってていい…。

だけど…


嫌いだから…

その仕返しがこれ…?


レコーディングで散々やられてる仕返しがこれなの…?
(なまえ)
あなた
私だって必死なの…。
あなたをもっと大きくしなきゃならない…。

その言葉にハッとする壱馬。
(なまえ)
あなた
書かなきゃならない…。
作らなきゃならないの…。
私に対して抱いてるあなたのイライラを押し付けないでっ!!
私は分かってやってるの!
嫌いなんてそんな事分かってるの!
こんな事しなくたってっ!!

心のたけをまくし立てるあなた。

たまらず強く抱きしめた壱馬。


あなたの身体が強ばるのを腕に感じた。
(なまえ)
あなた
かずっ!!
壱馬
壱馬
ちゃうねん…。

ちゃうんや…


きっとホンマは…

初めて会った瞬間から惹かれてた…


せやけど…

あんたはいつまでも俺を認めん…


何年経っても…

初めて会った時のまんまや…


俺をけなして…

何時間も歌い直しさせる…


それはまるで…

何年経っても…

THE RAMPAGEになっても越えられない…

兄貴へのしがらみみたいやった…


あんたの俺を見る目が…

所詮…

登坂広臣の弟…


そう…

言ってるような気がしてた…


イヤやったんは…

そう思ってしまう俺自身…
壱馬
壱馬
俺は……あんたが欲しい…。

耳元で囁かれた。
壱馬
壱馬
せやから…兄貴から…あんたを奪う…。
(なまえ)
あなた
………何…言ってるの…?

緩んだ腕の中で自然と見つめ合う。


一度認めてしまったら…

もう引き返せない…


心がそうであると認識してしまったら…

無かったことには出来ない…
壱馬
壱馬
あなた……。

あんた…


が名前に変わる。
壱馬
壱馬
俺の…………。

頭をそっと引き寄せられて重なったキス。

さっよりずっと優しくて柔らかい。

なのに、さっきと変わらず焼かれそうな唇。


唇が重なる寸前。


小さな小さな声で囁かれた。



俺の女になれ………



その言葉ごと熱い吐息を流されれば、強ばった身体から力が抜けた。



目の前の光景は芝居なのか。

壱馬とあなたに何が起こってるのか分からなくて、現場はザワついていた。

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