第29話

自覚
2,203
2021/04/28 09:13

その日の午後。


リハスタジオでは、THE RAMPAGEが揃ってMV前の最後の振り合わせをしていた。


パフォーマーのパートを片隅に座って眺めていた壱馬。


その横にちょこんと座った北人。

ジッと見てきたから苦笑いした。
壱馬
壱馬
なんだよ(笑)
北人
北人
大丈夫だった?
壱馬
壱馬
は?
大丈夫って何が?
北人
北人
珍しく随分酔ってたみたいだったから。

その一言で思い出してしまった。

あの夜の事。


顔を逸らして、立てていた膝を伸ばす。
壱馬
壱馬
心配されるほど酔っちゃいなかったよ…。

取り繕ったはずなのに、不自然に聞こえた。
北人
北人
ねぇ、壱馬。
壱馬
壱馬
あ…?

細い足を抱えた北人。
北人
北人
壱馬、あなたさんの事好きでしょ?(笑)
壱馬
壱馬
はっ……?

予想もしてない一言。

北人は壱馬を見て微笑む。
壱馬
壱馬
お前、それ本気で言ってるか…?
北人
北人
あれ、違った?
俺にはそう見えたんだけどな。
壱馬
壱馬
どう見えたらそんな風に見えんだよ…。

ムッとした顔をプイッとした。
北人
北人
自覚ないんだね(笑)

クスッと笑う。
北人
北人
この間あなたさんがスタジオに来た時も、廊下で会った時も、壱馬ずーっとあなたさんの事目で追ってたんだよ?
壱馬
壱馬
威嚇だよ…。
あいつに好き放題やられ続けてムカついてるって教えてやってんだろーが…。
いい加減気付けって感じだよ。
ヘラヘラしながら毎度毎度顔出してきて、見るだけでムカつくのなんのって。

口がよく動く壱馬にまたクスッと笑った。
壱馬
壱馬
なんだよ…?
なんもおかしい事言ってないだろ…?
北人
北人
それも(笑)
壱馬
壱馬
え……。
北人
北人
あなたさんの事になると、壱馬はよく喋る。
壱馬
壱馬
そんな事ねぇよ…。
北人
北人
俺たち初めてだったよ?
あんなフラフラ歩く壱馬を見たのは。
こんだけ長くいて初めてだったの。
壱馬がお酒を飲んで話してたのはあなたさんの事だけ(笑)

ムッとした顔が戸惑いに変わっていく。
北人
北人
俺、思うんだけどさ。
あなたさんも壱馬が好きなんじゃないかって。
壱馬
壱馬
はぁ?(笑)
北人
北人
じゃなかったら、あそこまでしないんじゃないかなって。
あ、俺の勝手な想像(笑)
壱馬
壱馬
三代目とかにもやってんだろ…。
北人
北人
けど、今は三代目の曲は書いてないよね?

確かに…


あいつなんで…

三代目に曲書かねぇんだろ…


兄貴が歌いたがるだろうに…



"三代目のように…なるのかしらね…"



そういや…

んな事言ってたっけ…


誤魔化されて…

それ以上聞けなかったけど…
北人
北人
先輩たちに同じことをしてたとしても、壱馬に何かを求めてるのは事実だよね。
だって俺たち、一発OKだしね(笑)

求めてる…?


俺に…?

何を…?



壱馬は唇をキュッと噛んだ。



そんな事あるか…

あいつは兄貴の女だぞ…


俺はいつだって兄貴を越えられずに来た…


好きになった女はみんな…

兄貴を好きだと言った…


その兄貴と付き合ってる女が…

俺を…

好き…?


そんなの…

非現実的過ぎて…

笑えもしねぇよ……


壱馬はまた、無意識に唇を撫でた。

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