その日の午後。
リハスタジオでは、THE RAMPAGEが揃ってMV前の最後の振り合わせをしていた。
パフォーマーのパートを片隅に座って眺めていた壱馬。
その横にちょこんと座った北人。
ジッと見てきたから苦笑いした。
その一言で思い出してしまった。
あの夜の事。
顔を逸らして、立てていた膝を伸ばす。
取り繕ったはずなのに、不自然に聞こえた。
細い足を抱えた北人。
予想もしてない一言。
北人は壱馬を見て微笑む。
ムッとした顔をプイッとした。
クスッと笑う。
口がよく動く壱馬にまたクスッと笑った。
ムッとした顔が戸惑いに変わっていく。
確かに…
あいつなんで…
三代目に曲書かねぇんだろ…
兄貴が歌いたがるだろうに…
"三代目のように…なるのかしらね…"
そういや…
んな事言ってたっけ…
誤魔化されて…
それ以上聞けなかったけど…
求めてる…?
俺に…?
何を…?
壱馬は唇をキュッと噛んだ。
そんな事あるか…
あいつは兄貴の女だぞ…
俺はいつだって兄貴を越えられずに来た…
好きになった女はみんな…
兄貴を好きだと言った…
その兄貴と付き合ってる女が…
俺を…
好き…?
そんなの…
非現実的過ぎて…
笑えもしねぇよ……
壱馬はまた、無意識に唇を撫でた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。