普段。
誰よりもお酒に飲まれない壱馬。
珍しいなんてもんじゃない。
足をふらつかせていた。
支えてくれる北人の腕を振り払う。
フードを深く引っ張る。
背中で軽く手を振ると、目黒川沿いをゆっくり歩き出す。
後ろから見ててもあからさまにふらついていた。
確かに…
あなたさんは…
壱馬に対して容赦ない…
けど…
あなたさんのやり方が気に入らないって事を…
壱馬は隠してない…
イライラを募らせた挙句…
しっかり噛み付いてる…
どんな席でも…
お酒で崩れない壱馬が…
あんなに足元をふらつかせる理由…
もっと…
他にあるんじゃ…
肌をヒヤッと撫でる空気が気持ちいい。
アルコールで火照った息をハァ~と吐き出す。
なんだよ…
俺が…
真っ直ぐ歩けねぇとか…
しっかり自覚していた。
自分が酒に酔ってること。
鼻で笑いとばす。
あいつ…
何してんのかな…
無意識に、ふと思い出す。
あなたのこと。
目黒川の切れ目でタクシーを捕まえようと上げかけた手をゆっくり下ろす。
クルッと方向転換すると、自宅とは別の方向に歩き出した。
同じ頃。
自宅の防音部屋にあるグランドピアノを鳴らしていたあなた。
少し弾いては譜面に書き込む作業。
ピコン…
携帯にLINEが来たことを教える音。
画面を開けば1枚の写真。
メンバーとビールを掲げている臣が映っていた。
そう返信した直後。
すぐに返ってきた。
恥ずかしくなるような事をサラッと返してくる。
一人顔を赤くしてしまった。
少しの間の後。
その一言にクスッと笑った。
それを見て臣も笑っていた。
既読以降止まった返事。
携帯を置いて続きをしようとした部屋に
ピンポーン…
インターホンが鳴り響いた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。