第22話

インターホン
2,370
2021/04/26 00:23
北人
北人
壱馬、大丈夫?

普段。


誰よりもお酒に飲まれない壱馬。


珍しいなんてもんじゃない。

足をふらつかせていた。


支えてくれる北人の腕を振り払う。
壱馬
壱馬
大丈夫だよ…。
北人
北人
でもふらついてるよ?
壱馬
壱馬
言うほどそんな酔っちゃいねぇよ…。

フードを深く引っ張る。
北人
北人
送るから乗ってきなよ。
壱馬
壱馬
いや…ちょっと歩きたいからいいわ…。
じゃあな…。

背中で軽く手を振ると、目黒川沿いをゆっくり歩き出す。
樹
珍しいですね…壱馬さんがあんな酔ってんの…。
北人
北人
うん……。

後ろから見ててもあからさまにふらついていた。
樹
レコーディングの事とか、あなたさんの態度とか、意外と気にしてるんすかね…?
北人
北人
どうかな……。

確かに…

あなたさんは…

壱馬に対して容赦ない…


けど…

あなたさんのやり方が気に入らないって事を…

壱馬は隠してない…


イライラを募らせた挙句…

しっかり噛み付いてる…


どんな席でも…

お酒で崩れない壱馬が…

あんなに足元をふらつかせる理由…


もっと…

他にあるんじゃ…




肌をヒヤッと撫でる空気が気持ちいい。

アルコールで火照った息をハァ~と吐き出す。



なんだよ…

俺が…

真っ直ぐ歩けねぇとか…



しっかり自覚していた。

自分が酒に酔ってること。


鼻で笑いとばす。



あいつ…

何してんのかな…



無意識に、ふと思い出す。

あなたのこと。


目黒川の切れ目でタクシーを捕まえようと上げかけた手をゆっくり下ろす。

クルッと方向転換すると、自宅とは別の方向に歩き出した。

同じ頃。


自宅の防音部屋にあるグランドピアノを鳴らしていたあなた。

少し弾いては譜面に書き込む作業。


ピコン…


携帯にLINEが来たことを教える音。

画面を開けば1枚の写真。
(なまえ)
あなた
楽しそう(笑)

メンバーとビールを掲げている臣が映っていた。
(なまえ)
あなた
(私も飲みに行きたいなぁ。)

そう返信した直後。

すぐに返ってきた。
臣
(ダメ。他の男に手出されたくない。)
(なまえ)
あなた
(じゃあウチで一人で飲みますよ~だ。)
臣
(それもダメ。)
(なまえ)
あなた
(なんでよ…。)
臣
(酔ってる可愛いあなたを抱けないから。)

恥ずかしくなるような事をサラッと返してくる。

一人顔を赤くしてしまった。


少しの間の後。
臣
(あと3日だから…。)
(なまえ)
あなた
(うん…。)
臣
(早く会いたい…。)
(なまえ)
あなた
(うん………。)
臣
(充電切れちゃう(笑))

その一言にクスッと笑った。
(なまえ)
あなた
(切れるの早くない?)
臣
(毎日充電しないと。)
(なまえ)
あなた
(毎日!?もたない……。)

それを見て臣も笑っていた。
臣
(お土産、期待しといて。)
(なまえ)
あなた
(楽しみにしてる(笑))

既読以降止まった返事。


携帯を置いて続きをしようとした部屋に


ピンポーン…


インターホンが鳴り響いた。


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