翌日。
相変わらず真っ黒な格好の壱馬。
打ち合わせの時間より早くついてしまって、ラウンジへ向かう。
4人がけのテーブル席。
誰より…
キミの笑顔をずっと見ていたい…
誰より…
辛い時こそ傍にいたい…
だけど…
素直になれなくて立ち止まってしまう…
透き通るような声。
この声…
身体に染み込んでくる…
椅子の背もたれに身体を預けて、窓の外を眺めていたあなた。
静かに近付く壱馬は、向かいに腰を下ろした。
嫌味っぽくなってしまっ事を後悔した。
目を伏せるあなたをチラッと見る壱馬。
今のを聞けば分かるよ…
兄貴の好みが分かってるって…
あんたにしか作れない曲だ…
フードを取って帽子の奥から覗かせる視線。
驚きを顔に広げて見つめ合ってしまった。
それでもすぐに鼻で笑い飛ばして見せた。
引きつった笑み。
あなたは少しだけ身を乗り出した。
その先を遮る声。
壱馬の視線が声のする方に逸れる。
きっと…
信じては貰えないわね…
今の私が曲を作ってるのは…
あなたの為でしかない…
初めてあなたの声を…
あなたの歌を聞いた時から…
私は必ず…
私の作る曲で…
この人を輝かせると決めた…
私にしか出来ないと…
信じていた…
だけど…
声をかけられてハッと顔を上げる。
先に歩き出す壱馬の少し後ろからついていく。
だけど…
あなたはいつか…
私から卒業する日が必ず来る…
そうなる前に…
私の想いを注ぎ込んだ曲を…
ひとつでも多く歌って欲しい…
私のためじゃなく…
あなたが世界に羽ばたいていくために…
出会った頃より、確かに大きくなった壱馬の背中を見て、あなたは思った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。