第10話

視線
2,899
2021/04/22 13:54

顔を上げる臣。

ブースに入ると、そっと華奢な背中から腕を回した。


ハッとして手を止めたあなた。

臣のコロンとカオリの甘い匂いが混ざり合う。
(なまえ)
あなた
臣?いつ来たの?
臣
さっき(笑)
(なまえ)
あなた
声かけてくれればいいのに。
気付かなかった。
臣
曲作ってる時に邪魔したくない…。
(なまえ)
あなた
邪魔なんて思った事ないわよ(笑)
クスッと笑う。

立ち上がろうとするのを止めるように、強く抱きしめた。
(なまえ)
あなた
どう…したの…?
この甘い匂い…

この腕に…

あなたがいると安心させてくれる匂い…
臣
……好きだよ。
(なまえ)
あなた
………臣?
臣
あなた…好きだ…。
抱きしめられている腕に触れる。

小さな手。


ずっとこうしていたい…

ずっとこの匂いを感じて…

あなたの体温を抱きしめていたい…
(なまえ)
あなた
甘えん坊ね…(笑)
臣
あなた不足で死にそう…。
(なまえ)
あなた
じゃあ…充電させてあげようかな…//
臣
お願いしたいね…(笑)
身体を向き直らせる。
(なまえ)
あなた
でも、ウチでね。
壱馬が帰ってきちゃうから…//
臣
今夜は泊まるって連絡しとくよ(笑)
ピアノの蓋を静かにしめる。

色々書き込んだ譜面を腕に抱えた。
(なまえ)
あなた
その前にご飯食べない?
お腹すいちゃった(笑)
そう言って笑うあなたの腰を抱き寄せる。


一気に重ねられたキス。
(なまえ)
あなた
んっ…//
息が止まりそうな程深く。

離れたくなくて長く。
(なまえ)
あなた
んふっ…//
鼻先が触れ合う距離で見つめられた。
臣
やっぱり先に充電したいな…(笑)
(なまえ)
あなた
ダメ。ご飯が先。
じゃないともたない…//
頬をほんのり赤くするあなた。

臣はクスッと笑った。
臣
それは困るから、食事するか(笑)
(なまえ)
あなた
何食べさせてくれる?
臣
お望みのものを(笑)
(なまえ)
あなた
あっ、じゃあね。
行きたいお店があるの(笑)
こんなに…

一人の女を好きになるなんて思ってなかった…

こいつだけは…

誰にも渡したくない…


誰にも……


二人で待つエレベーター。

機械音を鳴らして開かれた扉の向こう側。


乗っていたのは壱馬。
臣
壱馬。
壱馬
壱馬
お疲れ様…です…。
言いつけを守る堅苦しい挨拶。
臣
お疲れ。仕事なの?
壱馬
壱馬
打ち合わせです…。
臣
そう。こんな時間から大変だね。
帽子の奥から覗かせる視線。

あなたと合った。
臣
それじゃ。
俺たち行くね。
入れ替わって向かい合う。
臣
あ、壱馬。
俺、今夜泊まるから。
ポンとあなたの頭に手を乗せると閉まっていく扉。

遮られるまでずっと外されなかった視線。


エレベーターホールに一人残された壱馬は、重たいため息をついた。

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