結局見つけられず、呆気なく駅に着く。
翔也「僕駅員さんに聞いてくるね」
あなた「私も行くよ」
2人で駅員さんの所へ行く。
翔也はあなたの鞄についたキーホルダーを指しながら尋ねる。
翔也「これ届いてませんか?」
駅員「最近は落とし物届いていないですね」
翔也「そうですか…」
駅員「申し訳ございません」
翔也「いえ、ありがとうございます」
駅にもなくて、とぼとぼと歩く翔也。
そのまま電車に乗る。
翔也「なんでないんだろ…」
あなた「ね…」
翔也「朝部屋出る時ちゃんと確認したのに…」
あなた「確認したの?」
翔也「うん。毎日してるよ。本当にお気に入りだったのに…」
あなた「そう、なんだ…」
毎朝キーホルダーの存在を確認しているということは
あなたには秘密にしておこうと思っていたが、口を滑らせてしまった。
翔也はそれに気づいていない。
一方のあなたは、翔也がそんなにも自分があげたキーホルダーを 大切にしてくれているという事実を聞いただけで、
頭の中にお花畑が広がりそうになる。
が、隣で悲しそうな顔をしている翔也を見てなんとか抑える。
あなた「電車降りてから見つかるかもしれないし、駅員さんもあったら連絡してくれるって言ってたから大丈夫だよ」
翔也「うん…ごめん…」
あなた「しょうがないよ。そんなに落ち込まないで」
翔也「ありがとう…」
翔也の降りる駅に着く。
あなた「見つかったら教えてね」
翔也「うん、バイバイ」
沈んだ気持ちをなんとか奮い立たせて、翔也は再び探しながら歩く。
しかしやはり見つからなくて、どんよりした気分で家のドアを開ける。
翔也「ただいま…」
リビングにいるお母さんに顔を見せる。
母「おかえり」
テーブルに置いてある物を見て、一瞬で目を見開く。
翔也「お母さん、それ…」
母「これ、翔也がいつもつけてるやつだよね?家の前に落ちてたよ」
翔也「それ無くしたと思ってたやつ!」
母「朝急いでたからどこかに引っ掛けちゃったんだね」
翔也「ありがとう!!」
嬉しそうにキーホルダーを見つめる翔也。
好きな子にもらったか、お揃いか…
そんなことを考えながら微笑ましく思うお母さん。
やはりお母さんには敵わない。
翔也「電話してくる!」
階段を駆け上がり、急いで電話をかける。
あなた「もしも…」
翔也「あなた、あった!」
あなた「えっ!本当に?」
翔也「うん!家の前に落としてた!お母さんが見つけてくれた!」
あなたはまだ帰り道だったが、そんなのは関係ない。
嬉しくなって声のボリュームが上がる。
あなた「見つかってよかった!」
翔也「ごめんね、迷惑かけて」
あなた「全然いいよ」
翔也「もう無くさないから」
あなた「うん、気をつけようね」
翔也「ありがとう、あなた」
あなた「いいえ」
もう二度と無くさない。
そう心に誓って
翔也は再びキーホルダーを握りしめた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!