汐恩「でもさ、デートの前の日に俺聞いたら好きじゃないって言ってたじゃん」
翔也「そうだったっけ」
汐恩「それまで本当に好きじゃないって思ってたの?」
翔也「うーん…」
翔也は口をムッとさせて考えている。
翔也「好きじゃないっていうか…好きって思いたくなかったっていうか…」
汐恩「どういうこと?」
翔也「好きって自覚しちゃダメだと思ってたから」
汐恩「なんで?」
翔也「俺受験の年は彼女作らないって決めてるから」
汐恩「え」
翔也のその言葉に汐恩は驚きを隠せない。
翔也「あ、汐恩が酒井さんと付き合ったのにはすごく賛成だし、俺も嬉しかったし、応援してるから変に考えないでよ」
汐恩「お、おう」
翔也「ただ俺は1つの事にしか集中できないから」
汐恩「だから中3になる時も別れたのか。誕生日の1週間前に急に別れたとか言ってマジでびびった」
翔也「ああ…まあ、あれは受験関係なしに別れようと思ってたけど」
汐恩「ちゃんと理由言えよな。まあ色々…とか言って濁すから何かあったのかと思った」
翔也「…今だから言うけどさ、あの人汐恩のこと悪く言ってきたんだよ」
汐恩「え?」
翔也「いい人だと思ってたのに幻滅した」
汐恩「マジで」
翔也「そんなの言えるわけないだろ」
汐恩「まあ確かに…」
翔也「それに、受験あるから、とかも言えなかったんだよ。その時汐恩も彼女いたじゃん。それで汐恩まで別れたら嫌だったし」
とことん翔也の優しさを感じる。
汐恩「え、じゃあ告んないってこと?」
翔也「受験終わるまではね」
汐恩「卒業式とか?」
翔也「うん…一応その辺を考えてる」
汐恩「へぇー」
翔也「我慢できるかはわかんないけど」
汐恩「でもさ、もし卒業式に告って付き合ったとするじゃん。
それでずっと上手くいってさ、就活とか始まって忙しくなったらどうするの?別れる?」
翔也「うーん…」
翔也は腕を組み、目を瞑る。
想像しているらしい。
5秒ほどしてゆっくりと目を開けた。
翔也「何年も付き合ってるってことでしょ?その時は多分手遅れ。好きすぎて別れられないと思う」
汐恩「おお…」
想像を遥かに超えるあなたへの思いの強さに驚いたところで、少し意地悪な質問を思いついた。
汐恩「じゃあ逆にあなたに別れたいって言われたら?」
翔也「うーん…」
翔也は再び目を瞑る。
その時間はさっきよりも長かった。
翔也「別れないようにちゃんと話し合うかな。まあ、まず別れたいなんて思わせないけど」
汐恩「…翔也すげえわ」
翔也「そう?」
翔也の男らしさを感じると同時に、あと半年以上思いが通じることのないあなたを、気の毒に思う汐恩だった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。