翔也「おっはよー!」
いつもの時間の電車に珍しく翔也が乗ってきた。
あなた「おはよ、早いね」
翔也「今日は早起きできた!だからすごく気分がいい!」
朝から非常に元気である。
電車を降りて、たわいもない会話をしながら歩く。
2人で歩く時はいつも逆方向だから、新鮮な感じがする。
私たちの前を4人くらいの小学生が歩いていた。
かなり小さいから1、2年生くらいだろうか。
小学校が近づいてきて、みんな走り出した。
翔也「小学生は元気だねぇ」
あなた「翔也も負けてないよ」
翔也「この子たちよりは大人だけど」
あなた「…中身はどうだろうね」
そんな話をしていると。
1番後ろを走っていた女の子が転んでしまった。
私たちは慌てて駆け寄る。
前を行くお友だちはその女の子に気づかない。
女の子は泣き出してしまった。
あなた「大丈夫?」
ただ泣いているだけで返事は返ってこない。
あなた「わー、血出ちゃってるね」
消毒をしないと絆創膏を貼れないから、とりあえずティッシュで血を拭き取る。
あなた「立てる?」
女の子は首を横に振る。
どうしようか困っていると。
翔也「あなた、僕の荷物持って」
翔也は私に荷物を渡して、女の子の前にしゃがむ。
翔也「大丈夫だよ」
そう言って微笑むと、背中を向けた。
翔也「はい、乗っていいよ」
おんぶをするらしい。
女の子は翔也の言う通り背中に乗る。
学校までは100mほどしかなかったからすぐに着いた。
校門の前で、翔也は優しくおろす。
翔也「血出ちゃってるから、保健室行ってね」
「お兄ちゃん、ありがとう…」
翔也「どういたしまして」
「お姉ちゃんもありがとう」
あなた「気をつけてね」
私はほとんど何もしていないが。
翔也「じゃあねー」
女の子とハイタッチをする。
その子はすごく嬉しそうにする。
私にはわかる。
その女の子の目は完全に恋する乙女だ。
お兄さんに優しくされたら恋に落ちるのにも納得がいく。
新たなライバル出現か…なんて。
「バイバーイ」
再び2人で歩き出す。
あなた「翔也すごいね。おんぶするなんて」
翔也「なんか、体が勝手に動いた」
あなた「絶対あの子翔也のこと好きになったよ」
翔也「ええ〜?あれだけで?」
あなた「うん。小さい子ってそんなもん」
翔也「困っちゃうなあ」
満更でもなさそうな顔。
あの子に嫉妬するわけではないが、ニヤニヤした顔を見ると少しだけ悔しくなるから。
あなた「…かっこよかったよ」
私がそう言うとほんのり顔を赤らめる。
恥ずかしそうに下を向いて笑う。
翔也「早起きっていいね」
気持ちのいい穏やかな風を感じながら歩く、いつもより幸せな朝。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!