ちょうど1週間前の帰りに木全君たちを目撃した。
今日は木全君に話しかけられるのかなと身構えて過ごしていたが、案の定昼休みに私のクラスに来た。
予鈴がなる少し前、木全君は席替えして離れた汐恩の席から私の席に来た。
翔也「あなたさん、今日部活休みなら一緒に帰らない?」
彼女持ちの人が他の女子と2人で帰っていいの?
という考えが頭に浮かんだが一応OKした。
翔也「じゃあまたあとでね〜」
私は真相を確かめることを決心した。
あっという間に午後の授業が終わり放課後。
私が行くとすでに木全君は昇降口の前で待っていた。
あなた「木全君」
翔也「あ、あなたさんやっほー」
駅へと歩き出すと、久しぶりだからか木全君はたくさん話してくれた。
少し沈黙になった時、私は話を切り出した。
あなた「木全君彼女いるんじゃないの?私と2人で帰って大丈夫?」
翔也「へ?」
あなた「この前公園で木全君が咲良ちゃんと抱き合ってるの見たし、他の人も木全君が咲良ちゃんの家に入っていくの見たって言ってたから…」
翔也「咲良?あ〜」
呼び捨て…
翔也「咲良はいとこだよ」
あなた「え、いとこ?」
それから咲良ちゃんのお家の事情や、木全君が時々お手伝いに行っていること、公園での話を聞いた。
あなた「そうだったんだ…」
翔也「そう、付き合ってないよ、いとこ」
そう言った木全君の表情が切なそうに見えた。
あなた「あのさ、もしかして木全君は咲良ちゃんのこと好きなの?」
私が聞くと木全君は少し困ったように笑った。
翔也「昔の話だけど。中学で咲良に彼氏ができて、はい、諦めました」
初めて聞く木全君の恋愛事情。
翔也「僕もその後彼女できたし、まあ今はいないけど、咲良は今も昔も大切ないとこだよ」
木全君に今は彼女がいないことに安心する。
その一方で木全君に好きな人や彼女がいたことに少しだけショックを受ける。
そんなの当たり前だし、私だって彼氏くらいいたことはある。
しかしそんな私のモヤモヤは一瞬で消えた。
翔也「今はあなたさんと話すのが楽しい」
たった一言に振り回される私はきっと、グミひとつで買い出しに付き合ってくれる木全君と同じくらい単純だ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!