第101話

特別②
2,058
2020/07/21 11:18
結菜のおかげでなんとか約束の時間に間に合った。


改札を通る彼を見つける。
色んな人に紛れているのにあんなにかっこいいってどういうこと。
あんな人と付き合っていると考えると、私に気づいて手を振っている翔也の顔を直視できなくなる。








ご飯を食べて、気が済むまで喋ってから私の家まで送ってくれる。

翔也「早く大学行きたいなあ」

あなた「楽しみだね」

翔也「あなたと一緒とか本当嬉しい。頑張ってよかった」

あなた「そうだね」


私の家まではあっという間で、もう家が見えてきた。
まだ着いてほしくなくて、どちらからともなく歩くスピードを落とす。
あと1mという所で私たちは立ち止まった。
翔也「あのさ…」

あなた「ん?」

翔也「まだ時間ある?」

あなた「うん」

翔也「ちょっと寄り道しない?」






家の前を通り過ぎて近所の公園に来た。

平日だから子どももいなくて辺りは静かだ。
ブランコに乗って軽く揺らす。




そのままずっと喋って、だいぶ話が途切れてきた頃に翔也はブランコから飛び降りた。
翔也「いやあ、結構話しちゃったね」

あなた「確かに」

翔也「帰ろっか」
私もブランコを降りて、家の方向へと歩き出す。





今度こそ家に着いてしまった。

お互いに別れの挨拶は交わしたが、私がドアを開けないでいるから翔也も帰ろうとしない。
こんな無駄な抵抗して何になるのか。

こんなにもバイバイが名残惜しいと思う私は我儘だろうか。

仕方なく1歩踏み出してドアを開けようとした瞬間。



腕を掴まれた。
びっくりして振り向く。

視界に入った翔也の顔は予想よりずっと近い。



目を逸らしたいのに、なぜか逸らせなくて。


いつもの穏やかな感じはなく

強ばっているような、何か目で訴えているような

そんな顔。


さすがの私もこれからするであろうことは想像がついた。


ゆっくりと近づいてくる顔に合わせて、私も目を瞑る。




ほんの一瞬

軽く触れるだけのキスをする。



大好きな人と初めてするキス。



胸いっぱいに幸せが広がる


はずなのに。




あまりに短すぎて

もっとしてほしかった、なんて心のどこかで思ってしまう。

翔也「帰ったら連絡するね」


翔也のその言葉には、下を向いたまま頷くことしかできなかった。
こんなことを思っている自分が恥ずかしすぎて。


なぜか歩きだそうとしない翔也に

早く帰ってほしいと心から願う。



それなのに。



気づいたら顎が持ち上げられていて


視界いっぱいに顔があって


再び唇に柔らかいものが触れた。



さっきとは違って、お互いの熱が伝わるくらいには長かったと思う。


離れると、微笑んでいる翔也と目が合う。


翔也「じゃあね」


そう言って私の頭に手を乗せてから歩いていった。





思わずその場にしゃがみこんだ。

頭に数十秒前の映像がはっきりと浮かんでくる。


唇にはまださっきの感触と熱が残っている。


自分からあんなことしてきたくせに

耳まで真っ赤だったし。


余裕そうに笑っていたけれど

家の門を出て姿が見えなくなる瞬間に、手で顔を覆っていたの見えちゃったし。

まったく、慣れているのか、慣れていないのか。


でも間違いなく私は翔也に弄ばれている。




ただ、そんなところも全て含めて

これ以上ないくらい


好き。




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