第9話

偶然
2,286
2020/05/07 12:00
その後の部活は集中できるはずがなかった。
汐恩とは一言も話さずに終わった。





他の人たちがみんな帰って、私はひとりで部室にいた。


今日あったことを考える。

瑠姫先輩に彼女ができて失恋したこと。

汐恩が慰めてくれたこと。

そして傷つけてしまったこと。
今日の出来事を全て思い出して私は泣いた。


どうすればいいかわからない。


悲しいのか悔しいのか申し訳ないのか、自分でもわからない感情を抱えてただ泣いていた。





20分くらい経っただろうか。
涙が落ち着いて辺りも暗くなってきた。
もう生徒は誰もいないだろう。
帰ろうとして校門に向かう途中、誰かに声をかけられた。

「あっえっと…あなたさん?」




あなた「木全君…」

翔也「帰り、遅いですね」

あなた「まあちょっと…木全君こそなんでこんなに遅くまで?」

翔也「今日ダンス休みだから残って勉強してたんだけど、寝ちゃって。起きたらこんな時間だった」
木全君はそう言って少し笑う。


翔也「あ…家どの辺?」

あなた「〇〇だよ」

翔也「じゃあ僕の2つ先だ」

あなた「そうなんだ」
無言のままなんとなく2人で歩き出した。
少し視線を感じる。
翔也「もしかして泣いてた?」

あなた「え?」

翔也「いや、さっきは気づかなかったんだけどよく見たら目赤いし、それに声も少し鼻声な気がして」
なんて答えればいいかわからない。
私が答えに詰まっていると木全君が再び口を開いた。
翔也「あの、僕でよかったら話聞きますよ?」



ほとんど話したことのない木全君。



普通なら話せない。



でもなぜか木全君になら話してもいい気がした。

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