朝、教室に入ると同時に、あまり喋ったことのない女の子2人に声をかけられた。
「ねえねえあなたちゃん、ちょっといい?」
あなた「? うん」
教室の隅に連れていかれ、小さい声で話す。
荷物を机に起きたかったけれど、そんな間もなかった。
「あなたちゃんと木全君って付き合ってるの?」
あなた「へっ?」
「最近話してたんだよね、2人が怪しいって」
「お揃いのキーホルダーつけてるし」
「この前デートしてるの見たし」
「付き合ってるんでしょ?」
あなた「まさか!付き合ってないよ」
ええ〜、と2人とも驚く。
「じゃああなたちゃんは木全君のことどう思ってるの?」
あなた「どうって…まあ、仲は良いと思うけど…」
「本当のところ好きでしょ!」
この手の質問はすごく苦手だ。
なかなか心を許しきっていない友だちに言うのは違うと思う。
翔也君にも申し訳ないし。
あなた「どうだろ…わかんないなあ、あはは…」
「なんだー、残念」
ごめんなさい。嘘です。
翔也君のこと好きです。
「でも、ねぇ」
2人は顔を見合わせてニヤニヤする。
あなた「ん?」
「木全君は絶対あなたちゃんのこと好きだよね」
「それは間違いない」
あなた「いやいや!ないでしょ!」
「あなたちゃんといる時の笑顔と言ったら…」
「あなたちゃんが他の男子と喋ってる時わかりやすく嫉妬するよね」
あなた「そう、かなあ…」
「まあ、何かあったら教えて!」
「朝からごめんね〜」
楽しそうに戻っていった。
席について机に顔を伏せる。
翔也君が私のことを好き…
まさか。そんなわけない。
翔也君なら汐恩が他の男子と仲良くしていても嫉妬しそうだもんな。
でも、期待せずにはいられない。
いやいや、冷静になろう。
期待して違った時のショックは大きいんだから。
うん。翔也君は私のことはきっと何とも思っていない。
そう自分に言い聞かせ、よし、と思って顔を上げると。
翔也「あ、起きた」
あなた「うわあ!」
目の前には翔也君の顔。
前の席に座って私の机に頬杖をついている。
翔也「なんでそんなにびっくりしてるの笑」
あなた「な、なんでもない」
翔也「おはよ」
あなた「おはよう…」
不意打ちすぎて心臓飛び出るかと思った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!