行冥さんが突拍子もないことを言い出すのは、昔からの事だった。
私の反応を見て、楽しんでいるらしい。
私の反応を見ては、決まってこう言う。
しかし私以外にこんな事を言ったりはしない。
どうして、私にだけこんな事を言うのか聞いたことがある。
すると、こう話し出した。
『あなたが齢2つのとき。私はお前に驚かされたことがあったのだ。
皆と川で釣りをしていたら、糸が千切れてしまって、
周りの子らはどうしたら良いか私に聞いてきた。
しかしあなたは1人だけ、"竿が無事なんだからこれを使って仕留めにいく"と言って、
川へ飛び込んでしまった。
皆あなたを止めたが、水中から顔を出したとき、
あなたの手には1匹魚が握られていた。
齢2つだと言うのに、あなたはよく話し、よく動き、頭も切れた。
だから私は、あなたにこのようなことを言うのだ。』
と、己の事ながらにわかに信じ難い話をしてくれた。
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次の日の早朝、行冥さんは任務地へ旅立っていた。私はこれからどうしたらいいか、まだ決めかねていた。
"人を変えたくばまず己が変われ"
この言葉を心に収め、まず今日すべきことを考えた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!