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第1話

プロローグ
46
2018/08/06 14:09
身体から滝のように汗が流れている。水筒は全て飲み干し、残った氷が容器とぶつかりカラカラと音を立てている。
こんな日は一刻も早く家に帰り、クーラーの効かせた部屋でゲームでもしたい。家でのことを妄想するとどんどんと部屋が恋しくなり、自然と自分の足が進んだ。やはり、ゲームの力は凄い。

家に着くとまずはシャワーを浴びた。汗を洗い流すと浴槽に浸かる。思わず声が出てしまうほどに心地よい。だが、ゲームが待っている。俺は早足で脱衣場を出て、パンツ一丁のまま、パソコンのある机の椅子に腰を掛けた。昨日買った新作のゲーム、やはりシューティングはパソコンが一番いい。何より立ち回りが効くからだ。

しばらくの間俺はパソコンにへばりついていた。するとインターホンが鳴った。俺は一時停止ボタンを押し、ゲームを中断した。あわててそばにあった短パンとTシャツに着替えドアを開けると、そこには黒いスーツに身を包む長身な男が立っていた。

「矢藤隆太さんですね?」と彼は聞いてきた。

「はい。そうです」と俺は答えた。

すると男2人は互いに頷き、俺の脳みそでは到底予測すらできない言葉が彼の口から放たれた。

「サイバー犯罪の容疑で連行させていただきます」

俺はすぐに理解が出来ず、ただ呆然と立ち尽くしていた。ドッキリかと思ったが、そんな空気ではない。というかドッキリであってほしいという気持ちの方が強かった。

「俺が…サイバー犯罪?どういうことです
か?」

震えながら口にした言葉は周りの蝉の鳴き声にかき消されてしまうほどに小さな声だった。

「詳しい事情は後で説明します。」

そこからの記憶は曖昧だ。俺は彼らの車に乗り、署に同行した。
もうなにがなんだかわからない。
額からはドロドロと汗が流れる。
俺は…「逮捕」されるのか…?
嫌だ。そんなの嫌だ。いや、まてよ、しっかりと自分の無罪を主張すれば…。
俺の頭は錯乱していてもう何を考えているのか自分でもさっぱりわからない。
今はただ。落ち着こう…
俺は必死で動揺を抑えた。


「8月だってのに、なんで暑いスーツを着なきゃいけねーんだよ。」

そう口にしたのは俺の同僚の赤松だ。

「仕方がない、今日は"例の犯人"との立ち会いだからな。」

"例の犯人"とは今回俺に与えられた仕事のターゲットだ。凶悪なサイバー犯罪を起こした犯人として依頼を受け、赤松と共に捜査を重ね、ついに奴の居場所や情報を突き止めた。驚いたのがその年齢だ。これだけのサイバー犯罪でありながら奴の年齢は18歳、高校三年生だったのだから。赤松ははじめ

「おいおい、笠原さんよぉ、俺も5年この仕事に就いてるけどよ。これはなんかの間違いじゃねーか?」

と聞いてきたが、入手した情報を照らし合わせると、彼が完璧に一致するのだ。それに、赤松はさほどいい人材ではない。彼が考えることより俺が考えたことの方が絶対に正しい。俺はこの件は完璧におさえることができたと思っている。

本部から車で赤松と移動し、10分ほどで奴の家に到着した。見かけからすると築は7~8年ほどのモダンな作りの家だ。インターホンをならすとすんなりと奴は姿を表した。彼は驚いたような表情をしていた。
連行させてくれと伝えると奴はとぼけたような表情をした。よくもそんな顔をできたものだ、しかし奴の顔はどんどんと青くなり、その顔は恐怖そのものだった。俺はついに尻尾を掴んだと思うと、すごく嬉しかった。なんだか言い訳だかなんだかをブツブツと並べているが、周りの蝉がうるさくて聞き取りずらい。
そんな奴を強引に車に乗せ、赤松と共に奴を署までつれていった…

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