それから、南の機嫌が悪くなることはなく、ゲームセンターを出た。
驚いたことに南のお出掛けの目的というのはゲームセンターのみだったようで。
プリクラを撮っていくつかのアーケードゲームを遊んで、私達は私の車に乗って宿舎へと向かっている。
隣の人は楽しそうに携帯をいじっていて、私に何か話しかけてくることもない。
ようやく私の心臓が静かになってくれたことに安心して、少し心が穏やかになった状態でハンドルを握って。
たまにはこういうのもいいかな、なんて。別にバレなきゃいいだけで、心理的に距離を置く必要はないのかな。
まぁその、バレなきゃいいっていうのがかなり難しいんだけど…
意外と南って鈍感そうだし、結構バレないかもね
運転してる間、少しこれからのことを考えていた。
これからもこの感じで南との関係を続けていけば、きっと数ヶ月前の私と同じことを感じさせてしまうような気がした。
一方的に南を悪役に仕立て上げたのに、一方的に距離を置こうだなんて。きっと一番の身勝手はつい最近までの私のこと。
自分が言ったことに責任を持つためにも、私はこの感情を隠しつつも南との距離を保つことにする。
そもそも、同じグループでアイドルなんて職に就いてる時点で距離を置けるはずもないから。
諦めてギリギリの関係を保つ事に決めた。
それは南のためではなく、私とTWICEというグループの印象の為。
印象操作って訳じゃないけど、まぁそれなりには操作しないとやっていけないしね笑
駐車場へ車を停めて、二人で宿舎へ戻って。
みんなに早かったねと声をかけられつつ、私達の部屋へ戻る。
部屋の手前。後少しで部屋に入るという直前で、チェヨンの声で私たちは動きを止めた。
珍しく、チェヨンが悩みを抱えている。
…申し訳ないけど、私にはそんな風には見えなかった。
悩みなんか抱えてるような目じゃない。まるで何か大事なものの前のような。
嫌な予感がした。南とチェヨンが、チェヨンの部屋に入っていく後ろ姿に胸騒ぎがした。
でも私にそれを引き止める資格はない。
もし私の憶測でチェヨンの悩みを増やしてしまったなら、私はきっとここにいられる気がしないから。
収まらない胸騒ぎは、二人が部屋の扉を閉めた途端により酷くなった。
…ゲーム機、switchでいいのかな
今すぐ暴れたい程酷くなる動悸から意識を背けて。私は一人で、目の前の扉をくぐった。
南side___
相談って言うから何事かと思ってきてみたはいいものの…
なんか、楽しそうやない?
なんか悩みがあるなら早く解決しないとって思って話聞きにきたのに今なんか映画の準備とかし始めちゃっとるし…
…あなたとゲーム、したいんやけどなぁ
私がゲームする約束がある、というと、突然声が沈むチェヨン。
声と一緒に表情も少し暗くなったような気がして、もしかして相談事ってあなたのことなのかな、なんて。
…もしかして、チェヨンも……?
チェヨンもあなたが好きだから、私が二人でゲームするのを阻止するために相談とか嘘ついた…とか
…いや、まさかね。そんなんだったら引き離すだけでええもんな、別に私と一緒に映画なんて言わんでも
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。