“あなた、起きて“
“ダメ。お出かけって言ったじゃん“
“……じゃあ私も一緒に入る“
体を揺さぶられて目を覚ます。驚くほど良い香りの中で。
昨夜に頭を使いすぎたからなのか、重すぎる瞼を開くことは困難。
瞼の重みと網膜を刺激する朝の日差しはいつになっても好きにはなれない。
あと少し。駄々をこねてみても私の身体は止まらず、ようやく止まったかと思えば私の肩に少し寒い空気が掠めた。
…?!
突然の寒さと、その良い香りが鼻腔を強く刺激した。
唐突な出来事に勝手に開いてくれた瞼が映したのは、既におめかし完了しているかなり綺麗な南の顔。
突然起きたからなのか、はたまた私の体を拘束するこの人が勝手に私のベッドに入ったからなのか。
…圧倒的後者によって、私の意識は夢の奥深くから現実へ引き戻される。
朝から供給が多すぎる可愛らしい表情と明らかに拗ねてます感のある声。
そんなの心臓がうるさくなる訳で。びっくりと嬉しいと恥ずかしいの三枚重ねで私の感情は行方不明。
今すぐ離れてもらわないとこんなに心臓うるさくしてるとか絶対笑われる。
その一心で早く準備するからと宣言すれば、これもまた突然の“うるさい“。
何がうるさいのか、声だって寝起きじゃそんなに大きな声は出ない。
心臓の音がバレた、とか?
うるさいと言った南の顔を恐る恐る見てみればほんの少しだけ頬が赤くなってる気がした。
扉を強く閉めて出ていった南の早くしての一言に、困惑しながら。
どこかウキウキしている私と、どこか苦しい感情を律しながら、準備に取り掛かった。
南のお出掛けって言ったら、デパートとかで決まったものだけ買って帰るみたいなの想像してたのに。
南の指示通りの道を進んで着いたここは、少しだけ古びたゲームセンター。
ゲームセンターの周りのお店も閉店しているお店や放置されたまま草が生い茂っている空き地。
ゾンビ映画に出てきそうなそんなゲームセンターに一体なんの用があるって?
車も私達のもの以外は2、3台程しかない。荒廃、過疎化していると言っても過言ではない程の場所。
ここなら人がいないからいいと思ったのか、私よりも早足で先を行く南。
少しの躊躇いも感じられないその足取りは、まるでこの場所を熟知している人間のものに思えた。
薄暗く、気味の悪い錆び付き方をした建物には不似合いな綺麗なその格好に理解が追いつきそうも無く。
こんな場所で一人になったら怖過ぎて帰れなくなりそう。
そんな情けない感情に動かされ、早足で私の前を歩く南の後をついていく。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。