第61話

59話
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2022/11/27 08:38




あぁ、あの惨劇から何年が経っただろうか
少なくとも、50年は経っている
そんなに経っていたんだな。長生きしていると、どうも時間の感覚が狂う
母の墓の前で合掌し、あの時の光景を鮮明に思いだす
あの時の鼻の奥を刺激するような嫌な臭い、耳をつんざくような切り裂く音…そんな全てが、一欠片も忘れることは無いだろう…
合掌が終わり、閉じていた両目をゆっくり開ける
確か、あの日もブラッドムーンだったな
私は、皮肉にもブラッドムーンに助けられた
元は…私は、"人間"だったから…
「母上…どうか、安らかに…」
そんな言葉を残して、くるっと母の墓に背を向ける
ふと、空を見上げてみると空一面灰色で埋め尽くされており、今にも雨が降りそうだ
…早く帰らなければ…
そそくさにその場を離れようと、脚を一歩進めた時、バキッという小枝を踏んだような音が、樹々の中から聴こえてきた
「誰だ?」
音がした樹々の方を睨み付け、咄嗟に身構える
…気味が悪い
私は、全力疾走をして、その場を離れた

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