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※「ドキドキ文芸部!」の登場人物であるサヨリをインスパイアされている前提。(ドキドキ文芸部のネタバレ含みます。)
1.サヨリについて
まず、サヨリという女の子に対する自分の理解を書きます。以降に書くことは基本的にここを下敷きとします。
主人公の幼馴染。
明るく朗らかな性格、かつマイペース。
思いやりが強く、他者の幸せや集団の輪を重んじる行動が目立つ。時として献身的すぎるほど。
実は昔から鬱を患っているが、それを誰にも話してこなかった。
他人本位のサヨリにとって、自分のことで周囲に迷惑をかけたり気を遣わせたりすることは耐え難い苦痛だからである。
作中において、主人公を文芸部に誘うという意味でもキーパーソン。
これには目論見があり、ここをきっかけとして主人公が交友関係に関係を持ち、ひいては自分以外の女の子と仲良くなることを願っている。
しかし彼女自身が主人公を諦めきれておらず、そこに”あの子”の干渉による鬱の悪化が相まって、精神的に追い詰められてしまった。
限界を迎えたサヨリは首吊り自殺を遂げる。
2.歌いだし~1番サビ終わり
〈うるさく鳴いた 文字盤を見てた
きっときっと鏡越し 8時過ぎのにおい
しらけた顔 変わってなくてよかった〉
”うるさく鳴いた文字盤”
スマホ。おそらくは主人公によって朝を告げる通知が延々と届いている。
公式動画のコメントに『いずれも過去形だから、サヨリは既に目覚めてはいるんだな』という理解があり、目から鱗めちゃ出た。
寝坊助のサヨリを起こすのはいつも主人公。
彼女は患った鬱のため、時間通りに起きることが苦手。「変わってなくてよかった」には、寝坊していることに対する彼女の負い目が感じられる。
変わっていなくてよかった「しらけた顔」だけど、対にあたる表情に映るのは疑念なんじゃないかと思う。
彼女にとって最も恐ろしいことのひとつは主人公に気付かれてしまうことだから、この気に留めていなさそうな態度こそがサヨリにとっては救いになる。
〈ピンクの植木鉢の ぐちょぐちょした心のそばに大きく育ったもの
結ばれたつぼみが こんなにも愚かしい〉
”ピンク色の植木鉢/結ばれたつぼみ”
サヨリの恋愛感情。何を以て開花とするかは人それぞれだけど、個人的には思いを告げることをそう定義するのが好き(これは後にもかかる)
”ぐちょぐちょした心”
サヨリ自身の心。恋と病の狭間で揺れ動く不安定な心理。
不安定な自分に不釣り合いな恋愛感情への強い自虐。恋心をしっかり自覚してしまっているのがタチ悪い。
はじめに記載した通り、サヨリは主人公が自分以外の女の子と恋仲になることを望んでいる。俯瞰的にいうと負けヒロイン。
「愚かしい」のは、主人公が他の人と親密になる未来を望みながら、彼のをこんなにも意識していることでもある。
〈ああ 化石になっちまうよ
ああ 取り繕っていたいな
ちゃんと笑えなきゃね 大した取り柄も無いから
空っぽが埋まらないこと 全部ばれてたらどうしよう
ああ あなたの右どなり
わたし きゅうくらりん〉
”化石”
ピンとこない単語。埋もれさせてしまうけど、形には残る思い出?
ここは先述したサヨリの内面について。
鬱に侵される空虚な内面とそれを取り繕いたいという外面、その両方が彼女を成している。
「取り繕っていたい」「大した取り柄も無いから」「全部ばれてたらどうしよう」と、素の自分に対するコンプレックスが執拗に押し出される。
「あなたの右どなり」が彼女にとってここまでの犠牲と忍耐を支払うべきものである、という事実は今では健気なだけだけど、これが負の側面を覗かせるのは後々。
「きゅうくらりん」というワードについては最後に書きます……。
3.2番
〈例えば今夜眠って 目覚めたときに
起きる理由が ひとつも見つからない
朝が来たら わたしは どうする?〉
歌詞としては初めてサヨリの鬱に直接触れるポイント。
前に書いた通り、朝がつらいサヨリがそれでもベッドを這い出でられるのは、主人公が待ってくれているというたったひとつの理由だけ。
サヨリは主人公が誰かとくっつくことを望んでいるけど、でも本当に主人公が誰かと結ばれたら。迎えに来てくれなくなったら。
この段階で、サヨリは主人公がいない未来に思いを馳せている。
それが暗闇の中にあることに薄々気付きながら、その期に及んで「どうする?」とあり、まだ曖昧な不安。
〈うるさく鳴いた 文字盤を見てた
一歩一歩あとずさり 「また明日ね」とぽつり
喜びより 安堵が先に来ちゃった
思い出西日越し うつるこまかなヒビが
こんなにも恐ろしい〉
”うるさく鳴いた文字盤”
一緒に下校する習慣は彼女の方から破られる。
歌詞から想像できる、勝手に帰ったサヨリに連絡を送りまくる主人公……みたいなシーンは作中にはないはず。
彼女にとってはこれまでの当たり前が失われ始めた瞬間。
自分が身を引くことで、主人公が他の女の子と接近するチャンスを生み出したはずなのに「喜びより安堵が先に来ちゃった」。
そうすることでサヨリ自身も幸せになれると思っていたのに、内面までをも完璧に取り繕うことはできなかった。
〈ああ あなたが知ってしまう
ああ 取り繕っていたいな
ちゃんと笑えなきゃね 大切が壊れちゃうから
幸せな明日を願うけど 底なしの孤独をどうしよう
もう うめき声しか出ない
わたし ぎゅうぐらりん〉
”大切/幸せな明日”
ここでは、特に主人公の幸福と定義したい。
元々、サヨリの幸せとは「主人公の隣にいること」と「主人公が幸せになること」。だけど後者については、彼女は主人公が自分ではない誰かと親密になることがその条件だと考えている。
それらは決して両立することがない幸福なわけで……。
「ちゃんと笑えなきゃ」いけない理由に生じた大きな変化もポイント。
自分の居場所を守るための笑顔から、主人公の幸せを守るための笑顔に変わっている。変わらずサヨリの犠牲と忍耐は注がれるわけだけど、そこには何の見返りもない。
「幸せな明日を願うけど 底なしの孤独をどうしよう」という歌詞は、自身が最も救われない存在であり、おそらくはそれ故に他者に対する思いやりを持てるサヨリを端的に表したすげ~~~~フレーズだと思います。
4.間奏~最後サビ前まで
〈ああ 虹がかかっている空 きれいと思いたくて
焦がれては逃げられないこと
みんなにはくだらないこと
もう どうしようもないの
わたし きゅうくらりん〉
”焦がれては逃げられないこと”
愛したままでは諦められないこと。
「虹がかかっている空 きれいと思いたくて」があまりに惨い一文。綺麗なピアノの裏で鳴ってるノイズ音が、まさに空と彼女の対比っぽい。
何もかも上手くいかなかったことに対する内省と諦観。
〈そばにたぐりよせた末路
枯れ落ちたつぼみが こんなにも汚らわしくて いじらしい〉
ついぞ花開かなかった(=想いを告げられなかった)つぼみ。
「たぐりよせた」という言葉から感じるのは、まず彼女が自分の手で選んでつかみ取ったものだという事実。”あの子”の影響によって結末が悪化するとは言え、自分の恋心を断とうとしたのは彼女自身の選択である。
加えて、基本的にヒモ状のものに対して用いる言葉であることから、ロープ(=末路)を仄めかしている。
5.最後のサビ
〈ああ 呪いになっちまうよ
ああ 「あきらめた」って言わなくちゃ
頭の中で ノイズが鳴りやまないから
空っぽが埋まらないこと 全部ばれてたらどうしよう
ああ あの子の言うとおり 終わりなんだ〉
”あの子”
みんな大好きモニカさん。
文芸部の部長を務める優等生。才色兼備でリーダーシップもある。
とは言っても個性の強い文芸部員には手を焼いており、様子がおかしいサヨリのことも気にかけている。
サヨリの鬱が悪化している原因の片翼であるモニカ。
ここだけは明確にドキドキ文芸部!を示唆している。とはいえ恋路を阻む第三者という点では割とよくある要素だから、本作を知らなくてもそんなに違和感なく聴ける歌詞。
つぼみは枯れ落ちたにもかかわらず、気持ちを断ち切ることができないという「呪い」。
〈ああ 幸せになっちまうよ
ああ 失うのがつらいな
全部ムダになったら 愛した罰を受けるから
ひどく優しいあなたの 胸で泣けたならどうしよう
最後 見たのはそんな夢〉
”全部ムダになったら”
主人公と任意の女の子がいい雰囲気になっているところに、サヨリが悪い気を起こして乱入し、ムードを「ムダ」にしてしまうシーンがある。
”愛した罰を受けるから”
異変を感じ取った主人公に追究されるサヨリ。
周囲に心配をさせてしまうこと、特に主人公が優先して自分を気遣うことが、彼女にとっては胸を刺すほどの苦痛だった。
しかしそれも自身が弱みを見せてしまったことが原因だから、この苦しみは「罰」なんだと形容するシーンがある。
公式にある『せっかく幸せなシーンなのに、ようつべ上では次の動画が表示されだすのが結局夢って感じ』みたいなコメントで首を縦に振りすぎた。
晴れて主人公はサヨリのもとから離れ、そのことを願っていたサヨリもいよいよ「幸せになっちまう」。直後の「失うのがつらいな」と同様に、この期に及んで取り繕おうとするような口調が痛々しい。
その期に及んで「全部がムダに」なることを気にかけているあたりもサヨリらしいというか何というか。
終盤、彼女に対する感情を打ち明けるシーンでは、愛情か友情かのどちらかを選ぶことになる。
前者を選んだ時のサヨリは主人公の腕に抱かれて涙を流すが、後者を選ぶとその場でうずくまり、絶望に打ちひしがれる。
「ひどく優しいあなたの 胸で泣けたならどうしよう」ということは、この曲の中ではきっと後者だったのでしょう。
〈わたし ちゅうぶらりん〉
たぐりよせた末路。
「きゅうくらりん」という単語は、ままならない恋愛感情をガーリーなニュアンスで包んだ素晴らしい造語だと感じます。作者さんのサヨリに対する印象を言語化したものがこれなんだと思う。
勿論これは「ちゅうぶらりん」と韻を踏んでいるわけだけど、これらの単語はどっちが先に生まれたのかめちゃ気になる。
穿った見方な気もするけど、MVの最後に最初と同じカットが挿入されているのは、原作のループ性の示唆?
因みに「いよわ」さんの「たぶん終わり」も、「ドキドキ文芸部!」のモニカをインスパイアしていると言われています。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。