どうやら、今日の到着は私たちの方が早かったようだ。
といっても、バディさんやスタッフさんたちは準備を始めている。
挨拶をしながらスタジオ入りすると、方々から挨拶が返ってくる。
バディさんの一言に、ギクッとする。
シルクは悪びれることなく、サラリと嘘をつく。
でも、どうやらバレてる前提での嘘のようだ。
バディさんは、クスリと笑って、今日の撮影の流れを説明してくれた。
どうやら、今日はソロでの撮影はないらしい。
私とシルクでワンカット撮ったあとは、全員での撮影となる予定だ。
今日のテーマは「爽やかさと柔らかさ」。
衣装もメイクもガラリと変わる予定だ。
今朝は、既に下着を身につけてきた。
服を脱ぎ、スタイリストさんの元へ行く。
そして、今日の衣装に目を奪われた。
春をイメージしたような衣装。
桜の花びらを散らしたような、フワフワの衣装。
普段の私なら、絶対に着ないタイプの服だ。
あまり言われ慣れていない言葉に、思わず赤面する。
2人が、一瞬動きを止めた。
どうしたのかと思ったが、すぐにいつも通りの態度に戻ったため、気のせいということにする。
この時、
(シルクくんと、進展あったみたいw)
と思われているなんて、想像もしなかった。
そして、着々と準備が進められた。
自分が変わっていく姿を見ると、自然と背筋も伸びる。
スタジオに戻ると、メンバーたちも着替えを終えたようだ。
全員そろっている。
初めに気づいてくれたのはシルク。
ダーマのツッコミに、笑いが起きる。
全員の準備が整ったところで、カメラマンからの指示が出た。
2日目の、撮影開始だ。
バディさんと一緒に立ち位置の確認をする。
私は、桜の枝を持ち、シルクへ手渡す仕草をするようだ。
私とシルクが立ち位置に着くと、大型の扇風機にスイッチが入れられる。
それと共に、桜の花びらが舞い上がった。
花びらが舞い散る中、伏せていた目線を上げる。
シルクと視線が交差した。
桜の枝で口元を隠し、柔らかく微笑む。
それは、完全に、恋人に向けた笑顔。
シルクが愛しくて愛しくて堪らないといった表情だった。
シルクが息を呑む。
恐らく、仕事で、ここまで感情を露わにするとは思っていなかったんだろう。
だって、仕方ない。
シルクに、こんな顔をさせるためには、これが一番手っ取り早いと思ったから。
私たちの雰囲気が、明らかに昨日と違うことを、どうやらメンバーは勘づいたようだった。
…マサイには、後で伝えよう。
少し、おどけた表情をしてみせる。
そして、スッと、桜の枝を手渡した。
その枝をシルクは受け取り、愛おしそうに見つめてから、そっと桜にキスをした。
…やられた。
その合図に、救われた。
ニヤニヤしながら、シルクが顔を覗き込む。
先ほどの仕返しだと、シルクは楽しそうに笑った。
そこへ、メンバーたちがやってくる。
シルクがンダホの口を押さえるが、しっかり聞こえてしまった。
タクシーを待つ間に届いたメッセージは、それだったのだ。
なるほど。
だから、シルクは余計に怒ったのかもしれない。
心の中で、シルクに謝った。
マサイの天然っぷりに救われる。
みんな、シルクの13年?にも及ぶ片想いを知っていたため、自分のことのように喜んでくれた。
ンダホなんて、嬉しくて目に涙を溜めている。
本当に、素敵な人たち。
思いやりに溢れていて。
仲間を心から大切にして。
うん。
Fischer’sも、私にとって、永遠の推しだ。
突然、カメラマンの声がかかる。
最高の写真だ!と、太鼓判を押してもらえて、みんな嬉しそうだ。
最後に、全員並んで記念撮影をし、全ての撮影が終了した。
この写真集が、社会現象となるのは、もう半年ほど先の話。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!