第24話

弱点
744
2023/03/22 21:00
シルクのコンセプトは、始めから決めていた。
絶対的リーダーであるシルク。
まさに、"キング"だ。
動画の中でも、ほとんど負ける姿を見せない。
絶対的な存在。

もちろん、そんなシルクに惚れたのは私。
シルクの強さにときめき、シルクの強さに何度も感動した。
あなた
だからこそ。
ここで、シルクの新しい一面を切り開く。
あなた
コンセプトは、ウィークネス。
「弱さ」の表現をお願いします。
最後だから、と、衣装を思い切って崩す。
そして、髪を少し乱した。
メイクは、崩れることを想定してナチュラルに。
スタイリスト
いいわ。
さ、シルクロードのところへ。
私は、靴を履かずにフィッティングルームを出た。
変わり果てた私の姿に、スタジオはシーンと静まり返る。

おぼつかない足取りで、シルクの元へ向かう。
その間に、メイクさんがシルクの髪を乱し、服も少し着崩すよう促した。
シルク
……あなた。
あなた
…なぁに?
シルクの目を、ぼんやりと見つめる。
シルクも、どう言葉をかけたらいいのか分からないようで、名前を呼んだきり、黙ってしまった。

私は、スッと両手を伸ばしてシルクの頬を包み込む。
そして、これまでの12年間にも及ぶ恋心を思い返した。

始めは、純粋な憧れから。

カッコいい。
楽しそう。
溢れる生命力。
強さ。

……でも、声をかけるなんてできなかった。

クラスが同じになったこともある。
日直などの当番活動で、必要最低限の関わりだってあった。
だけど。
そこまでだった。

諦めようとした。
苦しかった。
辛かった。
忘れたかった。
長く続けば続くほど、思い出は美化されて。
そして、どんどん人気者になっていくシルクに、想いは募るばかりで。

あなた
……苦し…かった。
ポツリと思いを声に出すと、自然と涙が溢れてきた。
シルクは、私の涙を見て大きく狼狽えた。
でも。
友だちになって、シルクとの距離が近づいて。
シルクの色んな表情に触れるうちに、美化されていた思い出が少しずつ変化してきた。

カッコいいシルク。
…どんなことも、諦めずに努力していた。
楽しそうなシルク。
…本気で毎日を楽しむために、陰で苦しさと戦い、打ち勝っていた。
先輩たちは、シルクの台頭に嫉み、そして蔑んだ。
部活棟から出てきたシルクの目元が赤かったこと、一度だけあったじゃないか。
生命力溢れるシルク。
…辛いことから逃げずに立ち向かっていく力。
挫折を何度繰り返したのか。
私の知らないところで、何度悔しい思いをしたのだろう。

強いシルク。
…強さは、弱さを乗り越えて手に入れるもの。
でも、弱さは消えたりしない。
いつでも、どこでも、すぐに取って代わろうと待ち構えている。
紙一重。

そうだ。
私は、残りの人生も、シルクを想い続けると決めたんだ。
シルクの表面ばかりを見てはいけない。
彼の心を、弱さを、受け止めたいんだ。
あなた
シルク、今まで頑張ったね。
シルク
………っ。
私は、溢れる涙をそのままに、ニッコリと微笑んだ。

私は、もう絶対に離れたりしない。
シルクを応援し続ける。
想い、続ける。

その気持ちが、伝わればいい。
シルク
……あなた…。
私の名前を呼ぶシルク。

そして。
シルクの瞳から、一筋の涙が溢れた。
シルク
ありがとう。
涙を拭わず、シルクは私の額に、自分の額をくっつけた。

自然と、恥ずかしい…なんて思わなかった。
そのまま視線を絡めて笑い合う。



これが、私が魅せたかったシルク。

ううん。
私自身が見たかった、シルクの弱さだった。
カメラマン
……はい!オッケー。
カットがかかる。
シルクは、自分の袖で、私の涙を拭ってくれた。
シルク
……これからも。
色々あると思うんだ。
あなた
うん。
何が、とは聞かない。
私が過去を思い出していたように、きっとシルクも、これまでの思い出を振り返ったはずだから。
シルク
今までは、一人で解決してきた。
もちろん、仲間に相談できることもあったけど。
……できないことも、あったから。
あなた
そっか…。
シルク
これからは……見せても、いいか?
あなた
もちろん。
むしろ、見せてほしい。
シルクの弱さを受け止められる人間になりたい。

泣いたせいで、メイクはぐちゃぐちゃだけど。
私ができる精一杯の笑顔で応えた。
シルク
……っ!
ありがとう。
シルクはそう言うと、私をふわっと包み込んだ。
その、逞しい腕で。
マサイ
あーーーーー!!!
シルクがあなたちゃんを抱きしめてる!!
ンダホ
そこー!!
まだ仕事中だよー!w
メンバーに気づかれたようで、野次が飛んでくる。
シルク
……チッ。
シルクは舌打ちをして、そっと私の身体を解放した。
シルク
うっせ、バーカ!
ンダホ
えーひどいー!w
シルクの顔を覗き込むと、そこに、もう涙はなかった。
あなた
行こっか。
シルク
…おう。
メンバーの元へとゆっくり歩いていく。
みんな、笑顔で迎えてくれた。

シルクは気づいているかな。
メンバーの目元が、少し赤くなっていることに。

きっと。
5人は、私なんかより、シルクの弱さを知っている。
知っていても、友だちだから入り込めなかったり、歯痒い思いをしたりしたのだろう。
モトキ
あなた、ありがとね。
シルクに聞こえないように、モトキがそう伝えてきた。
その一言に、全て集約されていると感じた。

シルクの弱さを引き出してくれて、
隠していた部分を引き摺り出してくれて、
ありがとう…と。
あなた
ううん。
…支えていきたいね。
これからも。
モトキ
そうだね。
モトキと、顔を見合わせて笑った。

どうか、どうか。
シルクがシルクらしくいられるように。
そう、心から願った。

プリ小説オーディオドラマ