あー…あなた先輩について、か?
別に俺は話してやっても良いけどよ、先輩のことネタにすると他の奴らがなぁ…。
悪ィな、やっぱ無理だわ。あなた先輩にも迷惑かけるかもしれねぇし。
新聞部の奴の取材を断りながら廊下を歩く。
1年前、あなた先輩と出会ったときのことを思い出しながらーーー
◆◇◆◇◆◇
その日は本当に運がなかった。
テストの点数で教師に呼び出しくらうわ、弁当忘れるわ、おまけに財布も忘れるわ、本当にどうにもならない1日ってのはあるもんなんだと思い知らされた。
俺は中庭で力なく項垂れるしかなかった。
不意に傍から聞こえた声に顔を上げると
思わず女子と見間違えそうなくらい綺麗な男子生徒が目の前にいた。
そう言われて更に恥ずかしくなる。
先輩だと知って思わず姿勢を正した。
そんな俺にあなた先輩はクスクス笑って
そう言いながら綺麗にフィルム包装されたおにぎりを2つ差し出してきた。
そのまま、パタパタとあなた先輩は中庭から走り去ってしまった。
俺の手に残った2つのおにぎり。
突き返すのも失礼だと思って、フィルムをとって一口囓る。
今度何か礼しなきゃな…
なんて考えながら俺はもう一口おにぎりを囓った。
翌日ーーー。
俺は2年の教室へ続く廊下であなた先輩を見付け、走り寄る。
そう言ってコンビニで買った最近流行りの菓子を手渡す。
にこっと笑うのがまた綺麗で、思わず顔が熱くなった。
突然あなた先輩に切り出されて驚いたが、俺はそのまま頷いた。
友達?
そんなに人見知りな奴なのか?
そう言ってあなた先輩がまた嬉しそうに微笑むから、俺はそれ以上は深く考えることはしなかった。
そして数日後。
俺はその『友達』に誘われて、霧崎第一高校バスケ部に入部することになった。
◆◇◆◇◆◇
今日も俺たちのところに差し入れを持ってきてくれたあなた先輩。
先輩の作った料理は相変わらず金を出して買うモンよりも旨くて、最早バスケ部員の中で争奪戦になっている。
それでも、花宮の『友達』にはきちんと行き渡るようにしてくれる。
事前に取り分けて。
花宮の『友達』はあなた先輩の『お気に入り』だからな。
ブンッ!
ヒュッ!
花宮の合図で動き出すあなた先輩信者共のラフプレーを回避しながら、チラリとあなた先輩の方へ視線を向けると、先輩はあの時と同じように嬉しそうに笑っていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!