第12話

出会い ~山崎弘の場合~
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2020/09/17 08:19

あー…あなた先輩について、か?

別に俺は話してやっても良いけどよ、先輩のことネタにすると他の奴らがなぁ…。

悪ィな、やっぱ無理だわ。あなた先輩にも迷惑かけるかもしれねぇし。


新聞部の奴の取材を断りながら廊下を歩く。

1年前、あなた先輩と出会ったときのことを思い出しながらーーー
◆◇◆◇◆◇
山崎弘
山崎弘
………あー…腹減った……。
その日は本当に運がなかった。

テストの点数で教師に呼び出しくらうわ、弁当忘れるわ、おまけに財布も忘れるわ、本当にどうにもならない1日ってのはあるもんなんだと思い知らされた。


俺は中庭で力なく項垂れるしかなかった。
???
…………大丈夫?
山崎弘
山崎弘
え…?
不意に傍から聞こえた声に顔を上げると
山崎弘
山崎弘
っ!////
思わず女子と見間違えそうなくらい綺麗な男子生徒が目の前にいた。
(なまえ)
あなた
あ、急にごめんね。
キミの言葉聞こえちゃったから…。
そう言われて更に恥ずかしくなる。
(なまえ)
あなた
あ、俺は2年の花宮あなた。
キミは?
山崎弘
山崎弘
や、山崎弘っす。
先輩だと知って思わず姿勢を正した。
そんな俺にあなた先輩はクスクス笑って
(なまえ)
あなた
そんな畏まらなくてもいいよ。

ところで……お腹空いてるんでしょ?
よければこれ、どうぞ。
そう言いながら綺麗にフィルム包装されたおにぎりを2つ差し出してきた。
山崎弘
山崎弘
い、いや……でも………。
(なまえ)
あなた
大丈夫だよ。毒とかは入ってないから。
山崎弘
山崎弘
ち、違っ!
(なまえ)
あなた
ふふふっ、冗談冗談。

今日は多めに作ってきちゃっただけなんだ。余って捨てるよりは山崎くんに食べて貰うほうが良いから。
(なまえ)
あなた
ーーーあ!そろそろ行かないと。
お昼、弟と食べる約束してるから。
それじゃあ。
そのまま、パタパタとあなた先輩は中庭から走り去ってしまった。
山崎弘
山崎弘
………。
俺の手に残った2つのおにぎり。

突き返すのも失礼だと思って、フィルムをとって一口囓るかじ 
山崎弘
山崎弘
……旨い…。
今度何か礼しなきゃな…
なんて考えながら俺はもう一口おにぎりを囓った。


翌日ーーー。
山崎弘
山崎弘
あなた先輩!
俺は2年の教室へ続く廊下であなた先輩を見付け、走り寄る。
(なまえ)
あなた
あれ?山崎くん。
どうしたの?こんなところで。
山崎弘
山崎弘
昨日はありがとうございました!
俺、何か礼したくて…!
そう言ってコンビニで買った最近流行りの菓子を手渡す。
(なまえ)
あなた
わ、ありがとう。
そんな気にしなくてよかったのに。
山崎弘
山崎弘
いや、ほんと助かったんで!
(なまえ)
あなた
ふふっ。律儀なんだね、山崎くんって。
山崎弘
山崎弘
っ!////
にこっと笑うのがまた綺麗で、思わず顔が熱くなった。
(なまえ)
あなた
じゃあさ、お礼ついでに1つお願い
きいてもらえるかな?
山崎弘
山崎弘
え?あ、ハイ!
俺に出来ることなら!
突然あなた先輩に切り出されて驚いたが、俺はそのまま頷いた。
(なまえ)
あなた
弟と『友達』になって欲しいんだ。
山崎弘
山崎弘
え?
友達?
(なまえ)
あなた
そう。駄目かな?
山崎弘
山崎弘
いや、それは別に構わないっすけど、何で先輩が?
そんなに人見知りな奴なのか?
(なまえ)
あなた
あはっ、それは友達になってくれたらわかるよ。今度連れて来るから3人でお弁当食べようね♪
そう言ってあなた先輩がまた嬉しそうに微笑むから、俺はそれ以上は深く考えることはしなかった。


そして数日後。


俺はその『友達』に誘われて、霧崎第一高校バスケ部に入部することになった。

◆◇◆◇◆◇
原一哉
原一哉
花宮ー、ザキがあなた先輩が作って
くれたレモンタルト食ってんよー。
山崎弘
山崎弘
Σおまっ!?
花宮真
花宮真
よし山崎ヤマ外周行って来い。
俺は優しいからな、食い終わるまで
待っててやるぜ?
その代わり100周だがな。
(なまえ)
あなた
まーくん、それじゃあヒロくん死んじゃうよ。ちゃんとみんなの分もあるから、ね?
今日も俺たちのところに差し入れを持ってきてくれたあなた先輩。

先輩の作った料理は相変わらず金を出して買うモンよりも旨くて、最早バスケ部員の中で争奪戦になっている。

それでも、花宮の『友達』にはきちんと行き渡るようにしてくれる。
事前に取り分けて。

花宮の『友達』はあなた先輩の『お気に入り』だからな。
山崎弘
山崎弘
あなた先輩、今日も旨いっす!
(なまえ)
あなた
ありがと、ヒロくん。
今度カツサンド作ってあげるね。
花宮真
花宮真
《パチン!》
原一哉
原一哉
おっと手が滑った♪
ブンッ!
山崎弘
山崎弘
Σ危ねっ!
古橋康次郎
古橋康次郎
…………。
ヒュッ!
山崎弘
山崎弘
Σうおぉおっ!?
花宮の合図で動き出すあなた先輩信者共のラフプレーを回避しながら、チラリとあなた先輩の方へ視線を向けると、先輩はあの時と同じように嬉しそうに笑っていた。

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