※古橋視点
その日、花宮の機嫌はとてつもなく悪かった。
体育館の中で禍々しいオーラを放ちながら眉間に皺を寄せて黙り込む花宮に近寄ろうとする部員は誰もいない。
山崎や原も小声で言い合いをしながら原因を探るように様子を伺っている。
ただ、同時に俺は違和感を感じていた。
俺の言葉に花宮が僅かに反応した。
なるほど。怒りの理由はあなた先輩に関係していることか。
おかしいとは思っていた。
こういうときは必ずあなた先輩が差し入れを持って来てくれて花宮の機嫌を直してくれるのに、今日に限ってあなた先輩は体育館にすら来なかった。
このままでは埒が明かないと思ったのか、瀬戸がついに口火を切った。
あなた先輩が裏切り者?
意味がわからないな…。
山崎の言葉を遮り、体育館に件のあなた先輩の声が響いた。
隠していた?
どういうことだ?
気になるが、2人の様子があまりにも真剣だったので俺たちは何も言えなくなる。
………………………。
花宮とあなた先輩のハモりを聞いた後、たっぷりと10秒は思考が停止していた俺たち4人の声がハモった。
きの●の山?
そう言えば、先週山崎と一緒にコンビニへ行っていたな。あの時か。
つまり、先程の会話は
『!まーくんなら(ミント好きな)俺の気持ち、きっと理解してくれると思ってたのに…。』
『あぁ、俺も…あんなモン見たくなかったぜ、兄貴。(す●のこ派だと)信じてたのに…ずっと、(冷蔵庫に)隠して…(す●のこ派だと)嘘ついてたんだな…。』
『違うよ!それは…(冷蔵庫に)隠してたことは認めるけど…(先週食べたばかりだから)ずっと嘘をついてたわけじゃない!』
『でも俺は…(きの●の山のミント味を)知ってしまったから…。』
『………そうか。それならもういい!兄貴はずっとそちら側にいればいいだろ!』
ということか。
花宮は基本的に甘いものは嫌いだしな。
す●のこ派と自称しているのも、結局は両方嫌い、という意味なんだろうが。
そうか…す●のこ派か…。
暫くコンビニで見つける度に買ってしまっていたからな。
俺たちが続々とカミングアウトしていくと、花宮はぶるぶると震えだし
そう言って体育館から走り去っていった。
あなた先輩の悲痛な叫びが響く。
すみません、先輩。意味がわからないです。
ーーー結局、その日も霧崎第一高校バスケ部は平和だった。
ちなみにその後、花宮はカカオ100%チョコで先輩が作ったきの●の山で陥落させることが出来たが、山崎はた●のこ派だったため俺と原が粛清した。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!