『大ちゃん』
「え、あ、あなたちゃんっ」
案の定駅から少し離れた所で迷子になりかけの大ちゃんを見つけて後ろから声を掛ける。
「びっくりしたー…、一瞬ファンの子に見つかったと思った」
なんであなたちゃんここに居るの?
とでも言いたげな顔つきでこちらを見てくるので私はぽつりと口を開く。
『だって大ちゃん私んち知らないでしょ?』
「…あっ、」
そういえば俺知らねぇや、あはは。
なんていま思い出したような彼の言葉に私は唖然とする。
やっぱり彼は天然だと再確認せざるを得ない。
でも、そんな失態さえも明るく笑い飛ばしている大ちゃんを見てるのは嫌じゃない。
むしろこちらもつられて笑顔になってしまうから不思議なものだ。
『ははっ、大ちゃんてほんと面白いよね』
私が未だ自分の失態を笑い飛ばす彼に笑ってそう告げるとどこか照れくさそうに
「う、うるさいなー」
と、顔を赤らめた。
大ちゃんは自分が褒められるのは苦手なのかな、なんて思ってみたり。
「あ、あなたちゃん」
『ん?な、に』
突然私の顔をまじまじと見つめたと思ったら不意に名前を呼ばれて彼に視線を向けると、
「目やっぱ腫れちゃってる…」
大丈夫?痛くないか。
なんて私の目元に優しく大ちゃんの手が当てられる。
『だ、大丈夫だよ』
突然の彼の行動に恥ずかしくなった私は大ちゃんの目をまともに見れなかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!