『ねぇ……、チカ……っ…………てよっ』
『………て…、……がぃ……』
『……わ………のせいっ、い…………あ……からっ…!』
『……んで…、……てよっ…!』
『…………チカ……ぁ!!!』
『ぅ……うわあああああああ!!!!!』
─────────
(………ハッ、)
目を覚ます。
やっぱり、この夢……いや、記憶は何度見ても慣れない、な。
「……そんなに毎回見せなくても、忘れるワケないよ、キミのことも、私が犯した罪のことも」
ボソッと呟いて、我にかえる。
「ここ……どこ、?」
やけに暗くて狭い…けど……棺の中、か?
いや、それよりも問題なのは。
「あの世界じゃない…。」
いつもいる世界とは気配が全く違う。
それにこんな気配は感じたことがない。
何故だ。
昨日はどこにも行っていないし、行く予定もなかった。
普段通りに寝床に行って、眠りについた。
その記憶もある。
(とりあえず…棺の中から出てみるか)
そう思い棺の蓋を開こうとした時。
???「まったく…俺様を入学させないなんて、どうかしてるんだゾ」
何、この声…。…誰だ?
???「まぁさっさと式典服を奪うんだゾ」
いや、これは……人間じゃない…。
まぁ魔法のある世界では珍しいことでもないから驚かないけれど。
ただ、そうなるとこの世界は魔法が使える世界ということになる。
それなら尚更、何で私はこの世界の気配を知らないんだ?
魔法のある世界は全て回ったはずなのに。
???「ん゛……この蓋、開かないんだゾ…。仕方ない、炎!」
声の主が魔法を放ってくる気配がするが、私を狙っているワケではなさそうだから避ける必要もないだろう。
そう思う間に、棺の蓋が燃えた。
開けた視界の先に見えたのは…。
「…狸?」
???「ふなっ!!!俺様は狸じゃないんだゾ!!!ていうか、なんで起きてるんだゾ!?」
なんで、って聞かれても。
目が覚めたからとしか答えようがない。
「狸じゃないなら…何?猫?」
???「ふなぁぁっ!!!狸でも猫でもないんだゾ!!!俺様は大魔法士、グリム様だ!!!」
大魔法士…?
……まぁいいや。さっさと出るか。
グリム「オマエ、俺様を無視するとはいい度胸なんだゾ!!!丸焼きにしてやるんだゾ!!!」
叫ぶそいつを無視して、棺の外へ出た。
──────────
……やっぱりどこかわからない。
見た感じ、どこかの学園の中のようだけれど…。
それでも、この世界がなんという世界でどこにあるのかが全く掴めない。
グリム「待つんだゾ!!!逃げるなんて卑怯なんだゾ!!!」
いや…別に逃げてはないんだけどね。
この世界について探ってるだけで。
まぁ迫ってきた炎を避けてはいるけれど。
そう、コイツ……なんだっけ、グリコ?グリル?がいるせいで、下手に魔法が使えない。
どっか行ってくれないかな。
???「あぁっ!!こんなところにいたんですか!!!随分探したんですよ!!!」
なんだ、また新しいヤツが来た。
振り替えれば、………。
「カラス……の仮面……?」
変な格好してるな。
私が言うのもなんだが趣味だったら引くよ。
???「あなた、新入生ですよね?」
新入生?
それならやっぱり、ここは学園だろう。
これから入学式ってところかな。
「いえ、違いま、」
???「さぁ、早くいきますよ!!!」
「わ、ちょ……!」
─────────
変な男に手を引かれて連れてこられたのは、顔のある大きな鏡が置いてあって、棺がいっぱい浮いている広い部屋だった。
同じ格好をした……生徒、だろうか。人も沢山いる。
赤髪の男「学園長、何をされていたんですか。ほとんどの生徒の寮分けが終わりましたよ」
???「いやぁ、すみません。新入生が一人足りなくて探しに行っていたんですよ」
学園長、という呼び掛けに答えたのは私の手を引いてきていたカラスの仮面をした男だった。
ということは、この人が学園長?
ま、どうでもいいけど。
それより早く手を離してくれないかな。
好奇の視線を浴びたくない。
そう思っていれば手は離され、カラスの仮面をした男は部屋中に聞こえるような声で言った。
クロウリー「皆さん、初めまして。私がこの学園の学園長、ディア・クロウリーです。これからよろしくお願いします」
へぇ、やっぱりこの人が学園長なんだ。
クロウリー「さぁ、あと寮分けはあなただけですよ。早く鏡の前に立って下さい」
「いや、ですから私は、」
反論虚しく、男に背中を押されて鏡の前に立たされる。
もういいや。
こういうのは諦めた方が良い。
ていうか、これ何の時間?
寮分けとか言ってたけど何がしたいのかさっぱりなんだよね。
クロウリー「さぁ、闇の鏡、お願いします」
鏡「汝の名を告げよ」
「……あなた、です」
とりあえず名前聞かれたから答えたけどこれで良かったのかな。
それにしても、この鏡……魔法がかかっている。
何のために鏡に魔法を?
鏡「…………」
クロウリー「闇の鏡?」
鏡「…汝の形は……」
形……?
なんのことだろうか。
鏡「………分からぬ」
あなた/鏡以外「はぁっ!??」
うるさっ……。
クロウリー「どういうことです!?」
鏡「…この女の魔力が強いのか、弱いのか、あるのかどうかさえも一切分からぬ」
まぁ、そうだよね。
魔法で作られたものに私の魔力が推し量れるワケないし。
クロウリー「はぁ!??ちょ、ちょっと待って下さい。今までそんなこと一度も……」
眼鏡の男「……その前に。闇の鏡は先程、“女”とおっしゃいましたよね。……あなたは女性なのですか?」
え、待て待て。
コイツら、私のこと男だと思ってたの?
まぁ…私の見た目は黒髪のショートボブ。
それに式典服を着ていちゃ、男に見えなくもない。
しかもここ、男子校っぽいしね。
そもそも女がいるっていう発想がないのかも。
「…そうですが」
眼鏡の男は私に問いかけているようだったので、男と目を合わさずにそう答えた。
何故かって?
こういうヤツはだいたい腹になんか黒いもん抱えてるからだよ。
面倒は避けたい。
クロウリー「なんということでしょう!!魔力も分からない、女性の方を馬車が連れてくるなんてあり得ない!!あなた、本当に新入生なのですか?」
「いや、ですから私は新入生ではないと何度も…」
クロウリー「そうなんですか!?それはすみませんでした。ですが、そうなると…あなたはどうやってこの学園内に入ったんでしょう」
探るような目を向けられるが、そんなこと知るワケない。
「知りませんよ。目が覚めたらその棺の中にいたんです」
言いながら自分でも嘘臭いなと思う。
だけど本当のことなんだから仕方ない。
クロウリー「それはそれは……。大変だったでしょう」
まぁ貴方とさっきのモンスターがいなかったらまだマシだったと思うんですけどね。
……とは、さすがに言えないけれど。
クロウリー「ですが、新入生ではないと分かれば話は簡単です。あなた、出身はどこの国ですか?」
「……―――――の―――、―――――です」
答えたくはなかったが、帰るにはそれが一番の近道だろう。
答えてその場所がこの人に分かるかは甚だ疑問だが。
クロウリー「え?……そんな国、聞いたことありませんね。本当のことを言ってください」
……やっぱりね。
私が知らないのに、知るワケないか。
「本当ですよ」
クロウリー「そう…ですか。そんな国、ありましたっけ」
赤髪の男「僕もそのような国は初めて聞きました」
眼鏡の男「僕もです」
ターバンの男「オレも知らないな!」
美麗な男「アタシもよ」
タブレット「拙者の検索にも引っ掛からない…」
……ここに知っている人はいなさそう。
それならこっちから聞くだけ。
「……こちらからも、質問宜しいですか?」
クロウリー「はい、なんでしょう」
「ここはどこで、なんという世界ですか?私、これでも結構焦ってるんですよ」
そう。
私、結構焦ってる。
魔法とは長く付き合ってきたけど、人生でこんなことは初めてだもん。
だからそう聞いたのに、彼は、いや、彼らは皆、目を点にした。
赤髪の男「…き、キミ、ナイトレイブンカレッジを知らないのかい?」
「?ナイトレイブンカレッジ??」
美麗な男「じゃ、じゃあツイステッドワンダーランドは知っているわよね?!」
「いや、知りませんけど」
ナイトレイブンカレッジもツイステッドワンダーランドも初めて聞いた。
……じゃあやっぱりここは。
「…異世界ってことですか」
あなた以外「……はぁぁぁっ!??」
はぁ、気が重い。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!