今日はお客さんが割と少なかったように思う。
片付け始めながら常連のおじさんが惣菜を選んでいると、もう一人お客さんが来店した。
なんだかビシッとキメた人…
店長も奥さんも知り合い?
2人が顔を見合わせている。
そのお客さんはゆっくりとお店の中に入ってきて、ニコニコしながらお惣菜を見ていた。
常連のおじさんの会計が終わり、少しだけ奥さんと話してから外に出ていく。
店に他のお客さんがいなくなったのを確認すると、ニコニコ笑顔のその人が私に近付いてきた。
「こんばんは、あなたちゃん」
「やっと会えたね?」
私はその知らない人に驚いて、どうしたらいいかわからず奥さんの方を見て助けを求めた。
失礼だったかな、私どこかで会ってたんだろうか?
お父さんの知り合い…?
にしては若すぎるか。
年齢はむしろおっぱとの方が近そう。
「はい、何度か!あなたちゃんいつもいないから困ったよ〜」
不審に思う私たちとは反対に、すごく楽しそうに笑うその人は不思議な雰囲気を纏っていた。
全然覚えがないのに、何度か店に来て"やっと会えた"なんて正直こわすぎる。
一体この人はなんなんだろう、、
店長が申し訳なさそうにこちらを見る。
あ、前に店長が言ってた私のことを聞いてくる人がいるって…この人のことだったのかな。
お盆を持ったまま固まっている私の前まで来ると、その人は突然肩を掴んできた。
「あ〜かわいいっ♡」
満面の笑みで言ってから、そのまま引き寄せられてギュッとハグをされる。
「会いたかった〜!」
ふわっといいにおいが香ってきて安心してしまいそう。
いやいや騙されるなっ、、
細いラインなのに意外にも力が強くてびくともしない。
近くにいたおばさんがすぐ駆け寄ってきて私たちを引き剥がした。
店長も厨房から慌てて出てくる。
いつも優しくて穏やかな店長が珍しく大きな声で言った。
するとその人は一瞬驚いた顔をして私を見てから、またふわっと柔らかい笑顔になる。
「あぁ、申し遅れました。」
隣にいる私の肩を抱き寄せて、自信満々に言い切った。
「僕はこの子の、兄なんです」
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。