第5話

挨拶
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2021/02/11 02:56
you
お父さん、
…どうぞ
私を少し見た後、父はおっぱに向かって少し会釈をしたように見えた。

2人で部屋の中に入ると、私が留守していたのにも関わらず割合片付かれた部屋。
おっぱに酷い部屋を見られるのは恥ずかしかったから、安堵に胸を撫で下ろした。

小さいテーブルを囲んで3人で座る。
おっぱは私と一緒にここに来て、どうするつもりなんだろう。

突然変わった父の外観に少し戸惑いながらも、やはり昔に戻ったようで嬉しかった。
私が留守の間、どうしてたんだろう。
一体何があったのだろう?
聞きたいことはたくさんある。

…父は今、何を思ってるんだろう。

私が沈黙を破ろうと息を吸った時、隣の人が先に声を出した。
Jk
あの、先日は突然失礼致しました。
いえ、こちらこそ…
お恥ずかしい限りです。
あれ、この2人、前も話したことあったんだ?
2人の様子を伺いながら、私も会話に参加してるつもりで静かに聞いていた。
Jk
出過ぎた真似とは思ったのですが、どうしても。
はい、何とお礼を言ったら良いか…
あなたも元気そうで安心しました。
そこまで言って、父は私に目を移した。

10年ぶりに見るその優しい眼差しに、何かが込み上げてくるのを感じた。

なんだか照れ臭くて、つい目を伏せてしまう。

その後の二人の会話をまとめると、大体状況が飲み込めてきた。

おっぱが私を拾ったあの日、あれは突然だったと私は感じたけど、おっぱの中では限界の出来事だったみたい。
すぐに私の実家に行って父親と話をし、私を保護する代わりに父親の社会復帰を約束した。

たった一週間でここまであの父を立て直すなんて、さすがだと思う。

なんで、ここまでしてくれるんだろう…?
Jk
以前お話しました通り、僕は警察官です。
再び口を開いたおっぱの方を見る。
この人、こんな丁寧な話し方もできるんじゃん…なんて考えながら、この後のセリフに耳を傾けた。
Jk
ですが今回のことは警察官としてではなく、一個人として。
つまり一人の人間として行ったことです。
え、なんだろうこの感じ。
昔友達に借りた漫画で読んだことあるよ。

これって、もしかして、
"俺があなたを幸せにしてみせる!!"
みたいな展開?

そりゃ好きだけど!
おっぱのこと、好きだけど…!

どうしよーーーまだ心の準備がーーー
Jk
僕があなたさんの保護者として、今後もお預かりしますので。
you
はっ、えっ?
ここに来て初めて出した声があまりにも頼りなくて、自分でもびっくりした。
隣にいるおっぱも、向かいに座る父も、キョトンとした顔でこちらを見ている。
you
あっ、すみません…気にしないで…
保護者…
いやまぁそうだよね。
"俺がこいつを貰います!"
とか、妄想も甚しかったわ…

むしろ一瞬でもおっぱに好かれる夢を見れて幸せだと思おう、私。

でもこの会話で、私はまたおっぱと暮らせるんだってことがわかって嬉しかった。
Jk
あなたさんのことは僕がしっかり守りますので、お父さんはご自分のことをまず優先してください。
ありがとうございます…本当に。。
父は頭を床に擦り付けていた。
こんな父を見るのは初めて。

痩せ細り、いつの間にか小さくなっていた父の肩が震えているのを見て、胸の奥がまた少し痛くなった。

敢えて顔を上げさせなかったのは、おっぱなりの気遣いなんだろうか?

一度おっぱも床に額をくっつけた後、無言で立ち上がった。

急いで私も立ち、後に続く。

ドアの前まで来ると、後ろから小さな声が聞こえて振り返った。
あなた、父さん頑張るから。
お前も、しっかりな、
you
はい、お父さん…
あんなに恐怖の対象だった人が、今では人が変わったみたいに私を案じている。
これも全ておっぱのお陰かと思うと、なんだか胸のあたりがほわほわとした。

優しい人に戻った父の邪魔をしないように、私はおっぱに続いて部屋を出た。

またこの階段を降りる。
ギシギシとした音は相変わらずなのに、そこまで耳にうるさくなかった。

下まで来ると、前を歩いていたおっぱが振り返った。
Jk
もう今のお父さんなら、一緒に暮らすこともできると思うけど?
そう言ったおっぱの目は、どこか自信なさげに見えた。

それがどういう気持ちから来ているのか、今の私にはまだわからない。
you
私は…
私は、どうしたいんだろう。

確かに…優しい父に戻ったなら別に家を出る必要もない。

風が吹いて、その冷たさでいつの間にか流れていた涙に気付く。

手の甲で拭ってから、一度空気を飲みこんだ。
you
私は、おっぱといたい、です。
そう言って視線を上に向けると、真っ直ぐ見つめてくれているおっぱと目が合った。

おっぱはにこりともせずに右手で鼻を少し掻いてから、両方の手をポケットに突っ込む。

その後すぐに空を仰いで、
Jk
あーー
断られたらどうしようかと思った
と言った後、すぐにいつもの意地悪な笑顔になった。
Jk
ほら、帰んぞ。
一人でスタスタと歩いてしまうおっぱの後を急いで追いかける。

置いて行かれないようにと小走りになると、少しおっぱの歩幅が緩んだ。
you
おっぱ、ありがとう
心を込めて言ったけど、反応は無し。

聞こえなかったのかな?

そう思って少し前にいるおっぱの顔を覗き込んだ。
Jk
別に。お前の為じゃないし…
そう言いながら寒さでちょっと鼻を赤くしてるおっぱが、なんだか可愛く見えてしまった。

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