車の中で嫌というのに何枚かパシャパシャ写真を撮ってくるお兄さんに怒りながら、私たちは少しだけ話をした。
当然のように普通じゃないことを言われるから、この人と会話しているとだんだん自分がおかしいのかと思えてくる。
店長が前に私を訪ねてきたって人の話をしたのは確かテスト前だったから、まだ喧嘩もしてないし旅行も行ってない。
その頃は私のことをご家族にも話してないし、彼女とも言われてない。
私が不安そうに言うと、目を丸くしてキョトンとしたお兄さんがこちらを見てから大声で笑い出した。
そんな笑うことかなぁ?
ほんと会話が噛み合わなくて調子狂う…
未だに納得いかない顔をした私を見て、お兄さんがもしかして、と口を開いた。
ひとめぼれって、一目惚れ?
なんですかそれは。
そう言ってスマホをいじり出したお兄さんが、
"あなたちゃん、ちょっとこれみて"
と言うから近付いて画面を覗くと、
カシャッ
と音がして2ショットを撮られた。
なんだかわからなくて焦る私に、着いたよと楽しそうに言ってさっさと車を降りていくお兄さん。
遅れて後をついていく私を、少し前で振り返りながら待っているその姿を見て…
あぁ、あの2人は兄弟なんだな
と不思議と納得した。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!