あれからしばらく歩いて、今はミンジュオンニの家。
ミンジュオンニは実家暮らしらしくて、オンニに連絡したら部屋に入ってて!とのこと。
インターホンを押すとオンニの御家族が温かく出迎えてくれて、思わずここが私の実家なんじゃないかと思い違ってしまいそうなほど。
ミンジュオンニの部屋へ向かうと大人っぽさの中にどこかまだあどけなさの残るような部屋。
堂々とWIZ*ONEの前で"私はあなたペンです!"なんて公言していたオンニの部屋には当然私のグッズがあって。
わざわざコルクボードに私との写真やメンバーとの写真を貼っていてくれて、なんだか嬉しくなって。
他のメンバーとの写真もあるけど、圧倒的私の写真でどこか優越感を覚えつつ彼女の帰りを待つ。
...私は、悪くないし。仕事忙しいのだって、ウンビオンニならソロやってるんだから分かるでしょ
こっちだってオンニと一緒にいたくたって代表から言われたら断れないし、昔から良くしてもらってる会社に頼まれたら余計断れないし
...私、悪くない...よね?
ウンビオンニ今頃どうしてるんだろ...私の事嫌いになってるかな
一人で何考えてるのかな、私に言ったこと、後悔してるかな...?
しばらく待っていると、突然扉が開いて。
活動していた頃は控えめだったのに、あのおしとやかさはどこへやら、私を見るなりお腹に突撃を食らって。
ミンジュオンニに背中を押されて飛び出した外は、既に日が沈み辺りは暗くなっていて。
少し寒いこの季節なのに、なんだか私の身体は凄く暑くて。
焦りか怒りか。
ウンビオンニに早く会って、取り返しのつかないことになる前に早く謝らないといけない。
こんなことになってしまった私の馬鹿さ加減に呆れてため息しか出ない。
急いで走っても、オンニがどこにいるかすら分からない。とは言えこのまま立ち止まるのも私の中の私が許さない。
とりあえず走り回って、オンニが片っ端から行きそうな所を駆け巡ったけどどこにも居なくて。
少しづつ冬の寒さに体力を奪われてきた頃、まるで女神のようなメッセージがひとつ届いた。
"ユジン: ウンビオンニ、宿舎の前にいるって"
宿舎...?宿舎って、私達の...?
どの宿舎かもはっきりとしないまま駆け出した私。
結局、私が好きなのはウンビオンニだし、出て行けなんて言われても私はまだまだ幼いからすぐに彼女の元へと戻ってしまう。
...お願いだから、もう出ていけなんて言わないで
暗い冬を照らす煌びやかなイルミネーション。
風に揺れるその光が、私を応援しているような、掻き立てているような。
そんな不思議な感情に塗れながら、私達の思い出の詰まった宿舎へ走る。
ウンビside___
私達のマンネ2人が住む宿舎へ顔を出した時。
時すでに遅し。彼女は既にそこを離れ、走っていったとその宿舎のマンネに教えてもらった。
その子は彼女のサインが入った色紙を手に、心配そうな顔をして早く行ってあげてくださいと。
...そんなの、言われなくても分かってる
どこへ行ったかも分からないのに早く行ってあげてくださいと言われ、どこへ行けばいいのかも分からないまま着いたのは彼女と初めてデートした公園。
大の大人にもなって初デートが公園?
あの当時は、幸せ過ぎてそんなこと全く考えてなかった。
ただ、あなたが隣にいれば幸せで、あなたが笑顔なら私も笑顔になって。
二人で手を繋いで、ただ一周するだけでも凄く嬉しかったし、暖かかった。
この公園から、あの宿舎まで。
遠くもなく近くもないこの距離が、あの頃の初々しい私達の距離のようで。
早くあなたを見つけ出さないといけないのに、何故かその道を振り返りたい衝動に駆られて。
...少しだけ、夢を見させて
...着信?
突然、私が酷い言葉をぶつけた彼女からの着信。
何を言われるのか思って、逸る鼓動を押さえ込みながら平静を装ってその着信を取ると。
普段の彼女からは考えられないほどに息を切らして、私に動くなと言って。
正直、凄く会いづらくて。会いたくないと思う私と、早く謝らなきゃ行けないと思う私が戦って。
そこを動くなと言った数秒後、突然私の全身を凄く冷えた身体が包んだ。
突然の出来事に驚いて、下を向いたままだった顔を上げると私の肩に顔を埋めた彼女。
すぐ耳元からは声にならない声で、謝るような声が聞こえる。
溢れ出てくる涙をどうにか止めようと目を擦り続ける彼女の両手を取り、すぐそこにあったベンチに彼女を座らせて。
その隣にあった自販機から、彼女が好きな缶コーヒーを2つ買って。
彼女のすぐ隣に座れば、余計に止まらない様子の涙。
...こんなに、泣いてるところ初めて見た......
こんな状況なのに、そんな呑気なことを考えていた私は無意識下で彼女の綺麗なその泣き顔を見つめてしまって。
パチッと彼女の潤んだ目と私の目が合うと、その目を隠すように手を当てる彼女。
そんな彼女の手を下ろして、優しく握って。
あまりに冷えすぎたその体温を、私が温めてあげたい。そんな思いから2つの缶コーヒーを隣に置いて、彼女を見つめて。
今言った言葉に、何も嘘はない。
今こうしてあなたと手を繋いで歩けるだけで、さっきまでの不安と悲しみと後悔が全て綺麗に消えていって。
隣から聞こえる嬉しそうな声と、久しく見ていなかったあなたの何も取り繕っていない無邪気な笑顔。
年相応な表情をあまり見せない彼女が、こうして素を出してくれたのはいつぶりだったか。
私が少し強く握れば、倍の強さで握り返してくれて少し痛いくらいで。
それでも、その痛みが今まですれ違ってきた分を取り戻そうとしているような気がして痛いとは言えなくて。
私の歩幅に合わせてくれるあなたと、あの公園の前まで無言で歩くけど、その無言の時間が何故か愛しく感じられた。
ただ...この調子だと、家に着くのは夜中。明日は私もあなたも撮影があるし...
少し急ごう?と声を掛ければ、今までは少ししゅんとしていた彼女の表情が明るくなって。
私の手を優しく引いてくれて、少しスピードが上がって。
私の先を行くあなたが角を曲がろうとした時、突然止まって彼女の背中に鼻をぶつけてしまった。
結局、二人で帰れたのは数メートル。
二人きりの時間がもう少し続いて欲しい気もしたけど、久々のこんなに騒がしいお散歩は案外楽しくて。
普段の撮影の時のような、貼り付けた笑顔じゃなくて。心の底から楽しそうな笑い方でイェナと追いかけっこしているあなたを見ると、心がほっこりして。
イェナとのもみ合いも一段落着いたところで、さっきとは段違いに息を切らしながら私の首に巻き付いてきて。
少し歩きづらいけど...それもまた、幸せの形かな、なんてらしくないことを考えて
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。