第9話

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2022/01/01 11:07
あなたは何も聞いてくる事はなかった。
気を使ってくれているんだろうな。
薄々分かっていたんだろう。

私が早く帰れる日は、
2人でゆっくり寝室でゴロゴロしながら
他愛もない話をしながら眠りに就いた。
いや?イチャイチャしてたかもね。


ー寝室ー

あなた

なんかさぁ。

夏油傑
ん?
あなた

何年も何十年先の未来を
経験してるみたいだなぁ…

夏油傑
例えば?
あなた

んー。
ミミナナちゃんがどんどん大きくなってね。
私が産んだ訳じゃないけど、子育て?
できて。フフフ
成長するのは早いよね。
同じ様に私達も歳を重ねてる。

夏油傑
あー。そうだな。2年くらい経つか…
ありがとな。いつもフォローしてくれて。
正直、手を抜いて欲しいんだ。
ムリしなくていいからさ。
キミの時間も大事にして欲しいしね。
あなた

うん。ありがとう。
でも楽しいよ?・・・夫婦ごっこ?フフフ

夏油傑
ハハハ。ごっこ?
私はいつ籍入れてもいーけどね?
夏油あなた。
中々、しっくりくるよ。ハハッ
あなた

ハハハ、ホントに?

夏油傑
あぁ。あなたにその気があるならね。
あなた

フフフ。嬉しいなぁ。
でも、まだ学生だしね。

夏油傑
今は学生結婚だって、
普通にあるからね。
どのくらい大きなダイヤがいい?
あなた

ハハハ。プロポーズしてくれるの?
大きなダイヤ?買えるのぉ?

夏油傑
プロポーズなら、私は準備はあるよ。ハハハ
大きなダイヤだって、もしかしたら…フフッ
いけんじゃないかな?
あなた

ホントに〜??フフフ。ありがとう。
私はね、今の幸せがずっと続けば
それでいいよ。

夏油傑
ワガママ言っていいんだよ。
あなた

うん。でも十分幸せをいただいてますよ。
私は幸せ者だわ。(ホッペにチュ)

夏油傑
フフッ(あなたを見つめる)
ありがとうは私の方だ。(唇にキスをする)
ー・・・

自分の選択した行いに迷いはない。
今もだ。
でも、あなたの前では高専時代に戻っていた。
一緒にいる時は
それで良かったんだ。

時折、悟を思い出した。
高専の時にバカばっかりやって
箱入りの悟に笑わされたよな。

アイツ元気にしてるかな。
きっと、怒ってるんだろうな。

だが、もぅ立場が違う。
悟と再会する時は、きっと…
毎日、幸せを感じていた。
誰かに必要とされ、私の存在意義が満たされる。
何にもいらなかった。そこに傑が居てくれるなら。


ー翌朝ー
あなた

こないねー。お味噌汁冷めちゃうねー。

菜々子
夏油さん、寝坊してるの?
美々子、起こして来よー。
美々子
うん!
その日、私は何でか気分が優れなかった。
なんでだろう…風邪かな?
夏油傑
すまん!タタタタッ
美々子
夏油さん、頭ボサボサだよ〜ハハハ変なのー
菜々子
ちゃんと起きてくださいっ。
皆待ってるんだよ!
夏油傑
ハハッ。あなたのマネかい?
菜々子
そっ。
あなた

ハハハ。い〜ぞ〜。ナナちゃん!
ボサボサマン、反省して下さいね。

あなたとミミナナが笑う。普通の朝だった。
何も変わらない朝だったよな。
夏油傑
ハイハイ。ごめんって。
日中、忙しくて携帯を見る暇がなく
夜になりミミナナから電話が来て初めて携帯を触った。
あなたが帰っていないから、夕食どうしたらいいのかと。
今までこんな事なかったのに…

知らない着信が数件。留守電にメッセージが入ってる。
病院からだった。




ー病室ー カチャ

夏油傑
・・・
あなた?
信じられなくて、声にならない。
近寄るけど、目を瞑ったまま。
夏油傑
・・・あなた?
傷一つついていない、穏やかな顔。
呼吸もしているし、生きている。
反応のないあなたを目の前に
独りぼっちな空気が纏わりつく。
夏油傑
・・・あなた?起きろよ。
今朝、
私が寝坊したから仕返しのつもりなのか?
車に轢かれそうになった子供を助けたらしい。
致命傷はないそうだが、意識が戻らない、
ただ、動かないあなたを凝視するだけだったんだ。
夏油傑
・・・
ミミナナも待ってるんだよ。
回復したら、一緒に家に帰ろうな。
涙が自然と頬を伝った。
独り。取り残された気持ちでいた。
それからは、覚えていない。

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