そんな気持ちとは裏腹に
傑と旅行に出る日は、前の日から楽しみで
ワクワクした。
どこに行くか、何を食べるか、そんな話で盛り上がり
彼に自分の気持ちと、これからの事を
正直に伝える事にした。
沖縄についてからは、行きたかった所、
食べたかったモノ、計画通りで
あっという間に1日が終わる。
気持ちが、学生時代に戻っていたかもしれない。
無邪気に笑うあなたがいた。
私もきっとそうだった。
ー2日目ー
最終日は海でのんびり過ごす。
そういえば、悟とも任務で来たっけ。
同じ様に、こうして海を眺めていたよな。
ビーチチェアを並べて、
サングラスで太陽を浴びる。
二人とも仰向けで空を仰ぐ。
静かに、波の音が響いている。
顔を見ずに話せるから本音が言える。
傑が、話しやすい環境にしてくれたから。
どこまでも、優しくて
胸が痛い。
この世界にいる以上、掟は破れないもんな。
私が決めた事だからね。
私といると、苦しくて辛いと言った。
隣に居れないとも言った。
あなたは、あの時の私みたいだな…
悟のあの表情がどんな気持ちだったのかを
感じ取れた気がした。
別れずに済む方法を考えた。
手段はいくつかあるなんて言ったが、最終的にどれも
あなたを苦しめる事になる。
でも遅かれ早かれ、その時は来るんだよな。
選択ができない。
一択しかないんだよな。
声を出さず静かに涙するあなたを
抱きしめたかった。
でも、できなかったんだ。
手を伸ばし抱きしめたら
また、同じ事の繰り返しだ。
これからも進まなければならないんだ。私は。
割り切れなかったが
割り切るしかなかった。
話している間、傑とのいろんな場面が溢れ出し蘇ってくる。
その度に想いや涙がこみ上げてくる。
どの日も、全部笑ってたね。
毎日が楽しくて嬉しくて。それが全てだったよね?
あなたはいつも優しかった。
私を愛してくれて、私も愛してた。
昔も今も、この先も、ずっと。
覚えていてくれる。
あの時、抱きしめてくれたよね。
その言葉で、ダメだった。
私が言葉にできずにいた気持ちを…
傑も、そう想ってくれていたんだね。
そのありがとうは、同意ではない事は分かってる。
できやしない事と分かっていても言いたくなるんだ。
キミの名前を、呼べなくなると思うと辛い。
・・・だが、もぅこれまでだな。
全部夢だったらいいのにね。
眩しい青い空と海に囲まれ
あなたは少しだけ声を出して泣き
また、傑もゆっくり目を閉じる、涙が伝った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!