宏光が闇の中にいたとき俺は少しだけ、その心に
触れた。
それは誰も知らない心の奥底へとしまい込んだ孤独という闇の破片、そこには妬みや嫉妬もあり。
入所時期が遅かった宏光は心の中で人知れず葛藤
していたに違いない同年代の連中はすでに前へと
出ていたし、あげく後から入って来た年下の子達
にも追い越され先を行く俺もその内の1人だった。
なのに宏光は表明上は何ともない素振りをしていたっけ、だけど内面は違ったはず「平気なわけない」そんな完璧な人間、世の中にはいないさ。
しかし、そういう思い悔しさ全てを自分の心の奥底に封じ込め頑張って来たんだ。
ましてや宏光には、父親への思いもある。
人は誰しも闇を持っている、ただそれを表に出すか出さないかだけ。
だからこそ無理やり人の心の奥に入り込み、それを引きずり出し落としめるやつを俺は絶対に許さない。
信乃が教えてくれた、もしかしたら孝の玉の持ち主に選ばれていたのは俺だったかもしれないと。
「あれが自分だったら果して耐えられただろうか?」そう思いながら、俺は宏光の姿を見つめていたんだ。
宏光が苦しみ続けて来た闇が永瀬や皆の想いにより無事に払いのけられたのを見届けた俺は自分がなすべきことを果たす為、また月の道を探しに行くことにする。
しかし、その前に。
そう言うと紫耀は暫く考え込むような仕草をし、
それから真っ直ぐに俺のことを見つめ。
(んっ?別に競っているわけじゃないんだけど、まっいいか)
俺と一緒にいたことはトッツーたちには内緒にしておいて欲しいと念を押し、向こうにいる玉森たちにはバレているから遅かれ早かれ知られてしまうだろうけど今はまだ時間稼ぎが必要だ。
この先、宏光たちがやらなければならない事それは玉梓を倒すこと。
だから俺は、それまでに全員がこっちへ戻って来られるようにしなければならない。
すると、信乃が。
言われてもう1度、宏光の方を見たらそこには幸せそうに笑っている姿があった。
(ちょっとだけ、その頬に触れてみたい)
ふと手を差し伸べると、その感触が不思議なほど
リアルに伝わって来て「柔らかい」そう思った時。
「もしかして薮?」(えっ)
宏光の心が俺の中へ流れ込んで来てさ「マジか!?」驚いていると今度は「そっか、お前また話せない所へ行くんだ」そんな言葉が聞こえ。
(どうして?)
「分かった心配しなくても俺は大丈夫だから、お前は自分のやるべき事をやればいい」
そして、それを最後に宏光の心の声は聞こえなくなる。
(確かにそうかもしれない俺が感じたように宏光も
自分の気持ちを察したのかもしれない、でもそん
な友達そうそう出来るものじゃない絶対に失いた
くはないよ)
俺は改めて気持ちを強くし前へと進んで行く決心を固める、しかしそれは運命を切り開く道程でもあったんだ。
(人生って山あり谷ありって言うけれど、俺は自分が選んだ道をけして後悔なんかしていないよ宏光お前と出会えた、それだけでこんなにも素晴らしいものになったのだから。
だから、いつまでも友達でいてくれ。
そしたら時空の狭間をさ迷うことなったとしても
俺はちっとも怖くはないから、お前を感じること
が出来るのなら)
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。