(この声は、ぬい)
ダッと走り出した俺の後ろを「千賀!」叫びながら着いて来るニカ、すると目の前に高台があり屏風が音も立てずスーッと開いた、そこに死して「もののけ」と化した"ぬい"がいたんだ。
周りには、付き従うかのように女衆が。
(俺だ分からないのか?)
覚悟していたはずなのに、いざ目の前にすると気持ちが揺らいでいる自分がそこにはいた。
キーン、カーン、心は散々に乱れ飛ぶ。
あげく、ぬいは物凄い勢いで連打して来るものだから俺らは攻撃を防ぐのがやっとで。
キーン、カーン!
(こんなの俺の可愛い、ぬいじゃない、くっ)
キーン、カーン、キーン!「返してくれ俺の妹を」
悲しみが心を支配し頬には涙がつたって落ちる。
堪らなくなって叫ぶと2つの玉が光を放ち。
と、その輝きはぬいの身体を包み込み。
とたん形相は見る見ると変わっていき、それはまるで闇に蝕まれた苦痛の表情にも見え。
聞こえた来たのは、ぬいが俺に助けを求める声だったんだ「ぬい!」
それを聞き決心する。
(待っていろ今、楽にしてやるから)
見つめ合い頷き合う俺とニカ、狙うは「心臓」少しでも苦しめない為に、そして一気に止めを刺すつもりで刀を握りしめると「たあぁーっ」俺達は、2人同時に斬り込んで行く。
瞬間!叫び声が耳元で木霊して、刺した感触が手に伝わった。
思わず膝まづいた俺の身体をニカが支えてくれ…「心が痛い、くっ」それは愛しい者を自らの手で
斬ってしまったという悲しみ。
ニカも、同じ辛さに耐えているのが分かる。
「ピカッ!」けどそんな俺達の前に、まるで救いの手を差し伸べるかの如く光りが射し込んだかと思うと。
元に戻った、ぬいの姿が目の前に現れたんだ。
ニカの問いに、ぬいは微笑みながら頷く。
何はともあれニカと俺はホッと胸を撫で下ろす…が、そのとき。
今度は、あの時と同じ光りのトンネルが俺らの前に現れ。
(ミツが…)
俺らが後ろを振り返ると「ふっ」と笑って背を向け手を振るガヤちゃん。
けど、俺らの叫び声は虚しく響き渡るだけで身体は否応なしに光りの中へと引き込まれてしまう。
(嘘だろ?こんなのってあるか~)
俺とニカは、そのまま意識を失い再び目を覚ましたときには目の前に薮がいたんだ。
(裏切りだなんて思っちゃいない、けど一緒に戦いたかった…だから必ず帰って来て)
俺達はひたすら待ち続ける、それを信じ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!