下に降りると、「ヨミ〜!」と名前を呼びながら先に着いたウランが走って来る。そして、勢いよく抱きつかれてからその場で回転させられる。
話をしていると、目の前の道路に一台の車が止まり、車窓が開く。
運転席にはセンバがおり、「はよー。ほら、乗れ」と言って車の扉が開いた。
斜め後ろに座っているエース君が「センバさんめっちゃいじられてますね……」と苦笑いしており、その後ろに座っているジェイド君はクスクスと笑っていた。
俺達の会話を聞いていたアズール君が引きめの表情で「随分ストレートにボロクソ言いますね」と呟く。彼から“ボロクソ言いますね”と言われたのは、センバがジャミル君とちょっと似てるよなーという話をした時以来だ。
センバの言いたいことも分からんではない。先程言っていた“親しき仲にも礼儀あり”という言葉も、相手や自分のメンタル、仲の良さ、怒りの沸点によって限度も変化するだろう。それを考えると、俺達の沸点は高い方にある分、周りの非難する行為が俺達の中で当たり前になっている。親しくない奴には勿論やらないが、だからといって八方美人な訳では無い。
とか文句言いつつも、笑ってしまうのがセンバであり、俺達だ。こういった下らない会話は意外にも聞いていて飽きない。相手がこの二人だからかもしれないが。
運転しながらセンバが呆れ笑いし、ウランが「でも……」と口を開き、助手席から顔を出して後ろに座っている俺の方を見る。
俺からすれば中王区での格好はあまり見せたくないものではあるが。
というのも、黒タイツは履いているが制服がスカートなのだ。ズボンもたまに履いているが、なるべく普段の自分と程遠い格好をしてMCの“詠”だとバレないように気を付けながら振舞っている。これが結構疲れたりするが。正体を知っている各リーダーやマットリのメンツと中王区で会うと、珍しいもんを見た様な反応をされ、からかわれるので、その時に反論しようとついつい“詠”の部分が出そうになる。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。