レイシさんが寮を出た直後、カリムさんは後輩組に魔法の絨毯を見せ、立ち上がったフロイドが床を見て光る小さな物を拾う。
ユウさん達と絨毯の話をしていたカリムさんが僕達の方を見る。一応「この指輪、カリムさんのですか?」と尋ねるが「俺のじゃないなー」とカリムさんは首を横に振った。
指輪はシルバーで、センターにチェーンと羽根の装飾が施されている。しかし、今日こんな指輪を付けていた人はいなかった筈だ。
レイシさんに電話をしてみるが出ない。もう一度掛けてみるが……やはり出ない。
結局三人で行くことになり、小走りで鏡の間へと向かう。ユウさん達に押し付けても良かったが、場合によってはレイシさんが元の世界へ帰る瞬間を目撃出来るかもしれない。
むしろ、それが今回の狙いの一つだったりする。レイシさんは授業が終わった後、帰るのが早い上に僕達はモストロ・ラウンジの方で多忙だったり、彼を探るにしても都合が合わなかった。
おまけに、鏡の間は学園長の許可がなければ基本的には入れない場所。だが、今なら合法的に入れるだろう。
鏡の間の近くまで行き、扉を開けようとするが、中から誰かの話し声が聞こえてドアノブに伸ばした手を止めた。
扉に近付いて耳を澄ませる。ジェイドの言った通り、闇の鏡の声が薄ら聞こえた。
フロイドが言葉を言いかけた時、廊下の奥から数人の叫び声が聞こえた。目を向けると、ユウさんやエースさん達が魔法の絨毯に乗ってこちらに飛んでくる。その下ではカリムさんとジャミルさんが暴走する絨毯を追いかけていた。
鏡の間には鍵が掛けられてあったが、フロイドが扉を蹴飛ばし、扉を開けて入ると、闇の鏡の中へ入っていったレイシさんの片足が見えた。あの鏡、中に入れるもんなのか。
暴走した絨毯が廊下を真っ直ぐ行ったかと思えば、絨毯を追いかけていたジャミルさんとカリムさんもが焦りながら鏡の間へと入ってくる。どうやら今度は絨毯がUターンして飛んできているらしい。
絨毯が過ぎ去ったかと思ってカリムさんが廊下をこっそり確認するが、「うわああ!」と再び戻ってきた。一方通行で飛んでいた筈の絨毯が鏡の間へと入って来たのだ。
またもや絨毯がこちらへ向かって来るが、フロイドが何か思いついた様な顔をして僕の腕を掴んだ。フロイドが走った先には闇の鏡があり、フロイドが「えーと、なんつってたっけな。確か、“ヒプノシスマイク”って言ってた!」と独り言を言い始めた。
“ヒプノシスマイク”という言葉を聞いた闇の鏡が突然光りだし、僕達は目を見開いたが今更足を止める訳にも行かず、そのまま鏡の中へと入って行った────────。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。