次の日の放課後。
今日も普通に学校に来たが、昨日は案の定車での移動時間含めて帰りが遅くなり、日付をまたいでしまった。そういう時はやはり、学校に行くのが億劫に感じてしまう。でも何とか授業はやり過ごした。
廊下を歩いている最中、声を掛けてきたのはハーツラビュルの寮長。隣には眼鏡を掛けた人とチャラそうな人が居る。
俺が言うと、ハーツラビュルの寮長は顔を顰め、呆れたように小さく溜息をついた。
それを見て、呆れられてんじゃん眼鏡君。と内心思ってしまったのは内緒だ。
ユウ君達のしでかしたらしき事件や問題は度々耳にはしていたが、詳しい事は俺もよく知らない。でも、ハーツラビュルの寮長が今言った通り巻き込まれ体質なのは何となく分かる気がする。
話終わると、三人は俺が歩いてきた方向へと進んで行き、最後に軽く会釈して俺は廊下を真っ直ぐ進んだ。
今から、話にでてきたオクタヴィネルの寮へと向かうのだ。理由は昨日の眼鏡君との対面を機に、モストロ・ラウンジへと行く為。
他の生徒がちらほらと鏡の中に入って行くので、俺も同じ様に鏡の中に足を踏み入れる。
すると、景色が変わった。建物の中にはいるものの、周りは広い範囲で水に囲まれていて魚が泳いでおり、海の中に寮があるのだと分かった。
空いてる席に案内され、ワンドリンク制なので早速飲み物を頼む。周りには他の寮の生徒達が友人と来ていたりして賑やかに話をしており、カウンター席の近くには眼鏡君と双子の片割れ君が忙しそうに働いていた。何となく昔を思い出す。
うちのセンバは元アルバイターで種類問わず、色んなバイトを掛け持ちしたりしていた。飲食店でのバイトは割と多かった気がする。俺もウランも学生時代は飲食店でバイトをしたことはあるが、俺の場合センバ程働く気は無かった。
最初はヒプノシスマイクでラップバトルを行う際に、スキルや精神力が無ければ精神的にも物理的にもやられてしまう。おまけに、ただの口喧嘩ではなくて流れてくるビートに合わせながら即興で言葉を乗せないといけない。いきなり流れる音楽に合わせ、韻を踏みながら言い返すのだから、言葉の意味も通ってないといけない。比喩や語彙力、リズム感等も必要になって来る。
それが出来るまで、俺達は無花果さん辺りから指導された。後は……物騒な輩や、チンピラ共からの威嚇、事件や問題が起きた際に怯まない度胸や、そういった奴らに負けない卑怯さといった悪の精神も必要になる。これは兎さんからの言葉だが。
“Crazy Kir”の全体のスタイルとしては、基本的に一番最初に声掛けたり、啖呵を切るのはセンバ。相手が乗っかった所で俺が入り、仲裁役に見せつつ相手を指摘する。それで相手が手を出して来たのを逆手に取り、正当防衛と称して反撃。
最後に、ウランがまとめてトドメをさすと言った具合だ。
犯人と警察で言うならば本来刺激しては行けないが、犯人に対して先に突っ込んで威嚇し、喧嘩を売るのがセンバ。隙を見てその間に割って入り、相手を説得または罪状を突きつけるのが俺。最終的に捕まえてワッパかけるのがウランという流れになる。
しかし、これはあくまで仕事の際の順番で、何番手という順番を決めるならば本来一番手はウラン。二番手はセンバだ。
マジレスすると、俺達の世界で行われてるラップバトルと、ミュージックとして歌われるHiphopの中の洋楽ラップ、邦楽ラップとは別物として認識してくれればいい。
そんなことを考えていると、ドリンクが運ばれる。それと同時に料理を注文し、何人かからL〇NEが来ていたので、内容を確認するためスマホをいじる。
スマホのカレンダーで日付を確認し、空いてる日付をいちろーに伝え、返信する。
いちろーとはアニメ繋がりで結構親しくしてもらっている。次に、他の人からのメールを見る。
来週の日曜日は俺は空いているが、センバは体力作りの為にジムに行き、格闘技を習いにも行くらしいので一緒には行けないだろう。おまけに、アイツは意外と実家住まい。母と妹と暮らしていて、年の離れた妹の面倒を見ることもある。
浅い関係且つ、友人という名の“知り合い”……主に異性付き合いはセンバが多いが、こうして見てみると、それなりに親しい人達とよく会ったり、どっか行ったり、飯食ったりするのは俺の方が多いかもしれない。そういう意味では、まぁまぁ深い関係の人が多いのは俺の方だろう。
ウランに関しては、俺達と一緒でないとあまり人付き合いはしないタイプらしいので、大体家にいると言う。そして俺がたまに食事に誘う。
メールの返信をしている間に注文した料理が運ばれ、眼鏡君が「こんにちは、レイシさん」とこちらに歩いてきた。
運ばれた料理を一口食べたが、学生が作ってるとは思えない程意外と美味しかった。
俺も前まではたまーに簡単な創作料理をしていて、メンバーと一緒に食べることがあったが、最近はずっとコンビニで冷凍食品買うか、お菓子か、外食かだ。もしくは食べてない。基本的なんでも食えるし、大食いだけど……大体は気分で食べてるので、色々と偏っている。そう言う意味では偏食かもしれない。
口で返事しつつ、頭の中では別のことを考えながら再び料理を口に運んだ。
お食事会ではどんな料理が出るのだろうか。それなりに楽しみではある。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。