第29話

第四章 一話 生徒組のお出掛け
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2021/01/23 10:33
ユウ君達が帰ったあと、俺達はハラジュク・ディビジョンへと向かい、喧嘩してる輩をとっちめたり、他に問題がないかを監視した。
左馬刻サマ達の方はどうやら売人を捕まえたらしく、知らせのメールが届いた。今日は絡まれたり、秘密を暴露したりもして長い一日だったが、悪くない一日でもあった。
そして翌日────────
詠永 零熾
詠永 零熾
時間になったし、迎えに行くか
約束の時間に俺が鏡の間の鍵を内側から開けることになっている。俺はスペアキーを持っているので、普通に開けられるのだ。
今思えば昨日、鏡の間の扉の鍵を閉めた筈なのに、彼等どうやって開けたのだろう。魔法か、蹴飛ばしてあけたのだろうか。まぁいい。
スペアキーを彼等に渡さなかったのは、初めてナイトレイブンカレッジに来た際、学園長から鍵を預かった時に「誰にも渡してはいけない」と言う約束をしたから。
また、鏡の間に入る前には学園長からの許可も得てくるようにと一応釘をさしておいた。
アズール君やユウ君からのメールで「許可を頂きました」「今から鏡の間の前に向かいます」と来ていたので、俺も私服に着替えて鏡の間へと向かった。
詠永 零熾
詠永 零熾
(廊下から足音がする。賑やかな声も)
あっという間に鏡の間に行き、早速鍵を開けた。すると、私服姿の皆がタイミング良くやって来た。
詠永 零熾
詠永 零熾
やぁ、おはよう
ユウ(監督生)
ユウ(監督生)
おはようございます!今日はよろしくお願いします
エース・トラッポラ
エース・トラッポラ
おはようございまーす。レイシ先輩の私服黒っ!ヤバい組織の人みたい
詠永 零熾
詠永 零熾
よく言われます。僕、黒や灰色が好きなもんで
デュース・スペード
デュース・スペード
今日はお世話になります。あと、これ。クローバー先輩の手作りケーキです。
僕達、“後輩をよろしく”と言っていました
詠永 零熾
詠永 零熾
おぉ。有難く貰っておきます
ケーキが入った箱を受け取ると、ジェイド君が前に出て「僕達からもありますよ。どうぞ」とオシャレな紙袋を渡される。中はお菓子の詰め合わせらしい。
まさかオクタヴィネルの三人からも、物を貰えるとは思っていなかったので一瞬戸惑ったが、お礼を言って受け取った。
詠永 零熾
詠永 零熾
にしても、私服を見るの初めてですねぇ。普段は寮服や制服なので新鮮です
フロイド・リーチ
フロイド・リーチ
それ、来る時俺達も話してた〜。あと、学園長に鏡の間の扉蹴っ飛ばしたのバレて怒られた
ジェイド・リーチ
ジェイド・リーチ
ふふ。許してくれたので良かったじゃないですか。それと、こうやって生徒同士集まり、大人数で出掛けるのも初めてですから、楽しみですね
アズール・アーシェングロット
アズール・アーシェングロット
しかも行き先が僕達にとっての異世界ですからね
詠永 零熾
詠永 零熾
(蹴飛ばしたんか。許したんか)
エース・トラッポラ
エース・トラッポラ
改めて見渡すと不思議な面子だな……。俺達一年組はいつもの面子だけど、まさか一緒に出掛ける二年組がオクタヴィネル寮の三人って……
フロイド・リーチ
フロイド・リーチ
なぁに?カニちゃん、不満でもあるの〜?
エース・トラッポラ
エース・トラッポラ
い、いえ!そういうわけじゃないです!あはは……
自分で誘っておいでなんだが、エース君の言いたいことも分からなくはない。
この学校で一番最初に自分の居た世界をまわるのがこのメンバーとは……。
面子が面子なだけに、心配な部分は少なからずあるが、同時にピクニックみたいでちょっと楽しみでもある。俺ピクニックしたことないし、そんな好きじゃないけど。
ユウ(監督生)
ユウ(監督生)
グリムは鞄の中で大人しくしててね。見た目も他の動物と微妙に違うし、喋ると他の人が吃驚すると思うから。ペット禁止の場所もあるだろうし……
グリム
グリム
オレ様はペットじゃないんだゾ!
アズール・アーシェングロット
アズール・アーシェングロット
というか、連れて行くんですね
デュース・スペード
デュース・スペード
置いていこうとしたらしいんですけど、自分も行くって聞かなかったみたいです
エース・トラッポラ
エース・トラッポラ
駄々をこねる子供か
グリム
グリム
子供じゃねー!元々オレ様も行く予定だったんだから置いていこうとする方が悪いんだゾ!
詠永 零熾
詠永 零熾
来るのは良いんですけど、喧嘩して魔法を使ったりしないでくださいね。君達は喧嘩で魔法使って散々な目に合ってるみたいですし
エース・トラッポラ
エース・トラッポラ
わぁー、よくご存知で
この情報は昨日の別れ際にジャミル君が彼等と行動する時の注意事項として教えてくれた。前々からちらほらと噂は耳にしていたので、知ってはいたけれどわざわざ教えてくれるなんて親切だ。本人にそのつもりは無いのだろうが。
詠永 零熾
詠永 零熾
僕達は早めに集合しましたが、センバが来ないと移動ができませんので……奴が来るまでは家か外で待機ですかね。ウランは今日は電車で来るそうで、もうすぐ到着するみたいです。それじゃあ、行きましょうか
闇の鏡の前に立ち、合言葉を言って自分の部屋へと戻る。“靴を脱ぐように”と昨日教えたことを思い出したのか、全員が靴を脱ぎ始め、事前にカーペットの前に並べていたスリッパを履くように伝える。皆が玄関の方に一旦靴を置いている間、頂いたケーキとお菓子を冷蔵庫に入れた。すると、戻ってきたユウ君が「レイシ先輩の部屋って、絵の具に、楽器やら本やらが沢山置いてありますけど多趣味なんですか?」と聞いてくる。
詠永 零熾
詠永 零熾
うーん……そうとも言えるし、そうじゃないとも言える
グリム
グリム
どっちなんだゾ
詠永 零熾
詠永 零熾
恥ずかしながら、飽きやすい上に目移りが激しいからいろんなものに手を出しては中途半端になるって言うか……。だけど、ふとした時にまたやりたくなるから物はそのままにしてます
アズール・アーシェングロット
アズール・アーシェングロット
継続は大事ですよ。満足のいく結果を出すのがベストですが、人によっては難しい人もいるでしょう。ですが、例え地道な作業でも積み重ねれば今より自分の能力を上げられる
ジェイド・リーチ
ジェイド・リーチ
珍しくアズールがまともな意見を言っていますね
アズール・アーシェングロット
アズール・アーシェングロット
僕はいつだってまともな意見を言っているつもりですが?
ユウ(監督生)
ユウ(監督生)
悔しいけど、アズール先輩が言うと説得力あるんだよなぁ。本人が人並み以上の努力家だから……
アズール・アーシェングロット
アズール・アーシェングロット
とはいえ、そこに飽きっぽい人がもう一人いますから
アズール君の目線の先にはフロイド君が居た。フロイド君は「え〜。だって飽きちゃうんだからしょうがねぇじゃん」と拗ねたように言う。その様子を見たジェイド君は「おやおや、困りましたね」と微笑むが、絶対困ってない。
フロイド・リーチ
フロイド・リーチ
誰かに言われて何かするのも嫌い
詠永 零熾
詠永 零熾
(分かる)
フロイド・リーチ
フロイド・リーチ
気分じゃない時はやる気起きねぇし
詠永 零熾
詠永 零熾
(分かる)
エース・トラッポラ
エース・トラッポラ
な、なんかさっきからレイシ先輩小さく頷いてますけど……まさか賛同の意ですか
詠永 零熾
詠永 零熾
そんなとこですかね。僕の場合は、絵を描くのがそれなりに好きなんですけど……友人からたまに描いて欲しいと頼まれることがあるんです。でも、人からの依頼ってなんかやる気起きなくて、相手から金銭を支払うからと言われても大体お断りしてます
デュース・スペード
デュース・スペード
むしろ、お金を払ってまで頼まれるんですね……
他にも、一日の計画を立てようが結局気分によって殆どの予定が変わってしまうので、俺が計画通りに行動するのは難しく、そして稀だ。どちらかと言えば、ウランの方が得意だろう。センバに関してはそもそも計画立ててるのかすら分からない。シブヤに居るその場凌ぎのギャンブラーとほぼ同じだと考えてもいいだろう。
アズール・アーシェングロット
アズール・アーシェングロット
成績はともかく、学校では優等生と呼ばれている貴方が予想以上にマイペースな方なのも意外でしたが、読書家であるのも意外でした
エース・トラッポラ
エース・トラッポラ
本が置かれてる部屋に大量のノートとかも置いてあったんすけど、アレなんですか
話しながら僕の“書斎”に向かうと、デュース君が「相変わらず凄い量の本ですね」と呟く。
詠永 零熾
詠永 零熾
僕、副業で覆面作家をしてるんです
ユウ(監督生)
ユウ(監督生)
覆面作家!?
グリム
グリム
オマエ、他にもまだ仕事してたのか
ジェイド・リーチ
ジェイド・リーチ
秘密対策部部員としてのお仕事も大変忙しそうでしたが、作家となると締め切りに追われて時間が足りないのでは?
詠永 零熾
詠永 零熾
ははっ。まさにその通りですけど、何とか間に合わせてます。本は休日やパトロールから帰って時間が空いた夜中に執筆していますね。パトロールの最中に思い付いたネタなどがあればその場でメモしたりしますし……
デュース・スペード
デュース・スペード
やっぱ多忙ですね……。しかも、学校のテストがある時なんて余計に時間に追われるのでは?
詠永 零熾
詠永 零熾
そうですねぇ。赤点回避する程度には頑張ってますよ
話をしていると、センバから「もうすぐ着く」というメールが送られてきたので、「センバがもうすぐ着くそうなので、そろそろ下に降りましょう」と声を掛けて下に降りた。

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