第33話
第四章四話 Crazykirデュース視点
僕達は今、面倒事に巻き込まれている。違法マイクを持った男三人が女性と周りに居る人を人質に、センバさんとラップバトルを行おうとしているのだ。地面に座り込んでいた女性はウランさんが保護し、つい先程レイシ先輩から警察に通報はしたと聞いたが、警察が来るまで男性達を足止めしつつも他の人達にも危害が及ばないよう警戒しなければいけない。レイシ先輩達がそこまでするのはきっと、“秘密警察”としての責務があるからなのだろう。
出来ることなら何か手伝いたいが、魔法は禁止と言われたし、ラップが出来るわけでもヒプノシスマイクがある訳でも無い。下手にでしゃばって状況を悪化させるわけにも行かない。そんな時だった。
男性のうちの一人がセンバさんを見て、ハッとした。
こんな話をしていると、先手必勝で男性の一人が違法マイクを起動する。それと同時に周りの雰囲気が変わり、男性のバックにスピーカーが現れ、音楽が流れる。ラップバトルが始まったのだ。
一人の男性に続き、他二人の男性が音楽に乗せてラップをし始める。すると、違法マイクのせいか、倍になった威力でセンバさんが物理攻撃をくらってしまう。
前に出そうになるエースとユウ、そして“俺”をレイシ先輩が止める。レイシ先輩は自身の口元に人差し指を当てると、「そら、落ち着きなされ。センなら平気ですよ」と笑った。その言葉通り煙が止むと、膝をつくどころか攻撃に耐えたセンバさんがピンピンしながらヒプノシスマイクを起動していた。
ウランさんやレイシ先輩がマイクを起動し、同じようにスピーカーが現れた後、音楽が流れ始めた。この時点で既に迫力がある。だが、あっちには女性が捕らわれているし、攻撃していいのだろうか。
人質の女性はウランさんのラップの際に解放され、男性達は気絶している。
レイシ先輩のラップが終わった頃には警察は来ていたが、今度は“別の理由”で辺りがざわつき始めた。
ついさっきまで“秘密警察”の時のような“お掃除モード”だったのに打って変わって、後ろを振り向いたウランさんの表情がパッと晴れる。その瞬間、微かにこの場の空気が良い方へと変わり、雰囲気も少なからず明るくなった気がした。
ウランさんが集まって来た人達の目を引いている間に、レイシ先輩やセンバさんが巻き込まれた女性二人に声を掛け、警察に事情を話して違法マイクと男性三人を引き渡した。
パトカーが去るやいなや、レイシ先輩とセンバさんもウランさんと一緒に公衆に向かって話し始める。
突然弾けるようなポップな音楽が流れ出し、辺り一帯が明るく爽やかな空間へと変わる。
不安や心配な表情を浮かべていた人達も、三人を見てからは笑顔になり、ワァッ!と盛り上がっている。
歌が終わると歓声が一気に響いた。レイシ先輩達の歌は凄かったし、迫力もあり鳥肌が立ったし、とても盛り上がるのも分かる。だが───────
僕達がそんな話をしている間に、レイシ先輩達の周りにちらほらとファンらしき人達が寄って来て、貰い物をしている。しかも驚いたのが、そのファンの中に人質にされていた女性二人が居たのだ。
ファンが増える中、ウランさんが僕達の方をチラッと見てから口パクで何かを伝え、道の先をこっそり指差した。
僕達が先に走り出すと、リーチ先輩の言っていた様にウランさん達もファンの方に背を向けて、僕達のあとを追いかけてきた。
知らぬうちにファンをまくのに成功し、僕達は無事車がある駐車場へと逃げ切れた。
直ぐ様車に乗ってセンバさんがエンジンをかけ、シブヤ・ディビジョンという場所へと向かう。